怒りを通り越してもはや徒労を感じる。最高検は6月27日、小沢一郎・民主党元代表を巡る陸山会事件で、虚偽捜査報告書を作成したとして刑事告発された田代政弘・元検事(45)とその上司らの「不起訴」処分を発表した。しかし案の定、もっとも厳しい目を向けるべき身内に対し、捜査が尽くされたとは言いがたい。こんな茶番で国民を納得させることは到底できない。
最高検の今回の発表に、驚きはまったくなかった。「不起訴方針」はすでに何度も新聞各紙で報じられ、数週前から「Xデー」が囁かれては消えていたからだ。
「当初、5月中には処分が出ると見られていました。しかし、このときは法務大臣を含む内閣改造(6月4日)をにらんで延期に。その後、毎週のように『発表』と言われながら、消費増税政局の影響で延び延びになり、最終的に、法案採決(26日)に合わせて会見があるとの情報が広がった。結局、その翌27日の発表となったのです」(司法関係者)
検察が終始、慎重に根回しをしていたのは「バランス」と「タイミング」の問題だった。バランスとは、つまり、大阪地検特捜部の「証拠改ざん事件」との処分の差をどう言い訳するのか。タイミングとは、政治や世論の動向を見ながら、もっともダメージの少ない時期の選択だ。なんてことはない、この重大問題に際して彼らが頭を悩ませていたのは、組織防衛にとって"都合のいい"発表の仕方を探ることだった。
最高検は人事上の処分として、田代元検事を「減給6カ月」、佐久間達哉・元特捜部長(55)と、捜査を指揮した木村匡良・元主任検事(50)の2人を「戒告」、斎藤隆博・特捜部副部長(49)を「訓告」、岩村修二・元東京地検検事正(62)を「厳重注意」とした。田代元検事は発表当日に辞職した。
この問題の本質は、検審の起訴議決という「民意」が特捜部によって仕組まれた"陰謀"だったのではないか――という疑惑である。しかし、最高検は、虚偽報告書の作成が「故意か」「故意でないか」の問題に矮小化することにまんまと成功したのだ。
最高検の捜査結果は、田代元検事の「記憶を混同してしまった」という言い分をまるごと受け入れた上に、組織的な関与についてほとんど検証していない。あまりにお粗末な結論に、内部からも批判が出ている。検察関係者が嘆息する。
「捜査を尽くした上で"不起訴"というなら理解できる。だが、対象者の家宅捜索もしていない、当事者である石川知裕衆院議員(39)にも事情聴取できていない。内部の関係者から話を問いただけでは、初めから結論ありきだったのでは、と疑念を持たれるのは当然です。客観性を担保できるよう、できることはすべてやるべきだった」
※週刊朝日 2012年7月13日号