<みなさんがよく私の代表曲に挙げてくださる「なんてったってアイドル」なんて本当に歌うのがイヤでしたから。「またオトナが悪ふざけしてるよ」って(笑)>(注2)
ただし一方で、「客観的に見て『この曲を歌えるのは私だけだろう』っていう自信はあったし、そういう周囲の期待を感じてはいた」とも述べています。(注3)
「なんてったってアイドル」の4年後、小泉今日子は「KOIZUMI IN THE HOUSE」というアルバムをリリースします。そのころ流行しつつあったハウスミュージックのテイストを取り入れた作品です。
「小泉今日子はもともと、ハウスなんて好きなわけでもくわしいわけでもなかった。事務所の命令で歌わされているだけ」
このディスクにそんな批判を向ける「ハウスマニア」もいました。この件について、小泉今日子はこう言っています。
<当時はまだ多くの人が聴いたことのない、もしかしたらとっつきにくい音楽だったかもしれないけど、私という存在自体はわかりやすいですから。仕事の現場や遊び場で知り合った近田さんや藤原さんとファンの間に私が入れば、聴いていただけるとは思っていました。だって私自身、「ハウスが好きか?」と聞かれれば、別に好きじゃないですから(笑)
もちろんカッコいいとは思っていたけれど、“ハウスの人”になりたいわけじゃない。言ってしまえば、冷やかし気分だったからこそ、みなさんにとってちょうどいいカッコよさを探れたんでしょうね>(注4)
なんとなくハウスにあこがれている「部外者」だったからこそ、一般人にとって「ちょうどいいカッコよさ」を探れた――自分について、ここまで冷静な発言をできる人物はまれです。ふつうの歌手なら「もともとハウスに熱心で、けっしてニワカじゃなかった」と弁明するところです。
こんな具合に、みずからの価値を冷徹に見切れるのが小泉今日子の強みです。新しいことに次々挑戦して失敗しないのも、この強みのおかげが大きいといえます。
そういう彼女が、「なんてったってアイドル」は私にしか歌えないと思った理由は何だったのでしょうか。
※もしも「なんてったってアイドル」を松田聖子が歌っていたら(下)につづく
※助川幸逸郎氏の連載「小泉今日子になる方法」をまとめた『小泉今日子はなぜいつも旬なのか』(朝日新書)が発売されました
注1 『80年代アイドルカルチャーガイド』(洋泉社 2013年)
注2 「『なんてたってアイドル』を歌うのは嫌でした」小泉今日子30年の軌跡 日経エンターティメント 2012年4月2日
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2703M_X20C12A3000000/
注3 注2に同じ
注4 注2に同じ
助川 幸逸郎(すけがわ・こういちろう)
1967年生まれ。著述家・日本文学研究者。横浜市立大学・東海大学などで非常勤講師。文学、映画、ファッションといった多様なコンテンツを、斬新な切り口で相互に関わらせ、前例のないタイプの著述・講演活動を展開している。主な著書に『文学理論の冒険』(東海大学出版会)、『光源氏になってはいけない』『謎の村上春樹』(以上、プレジデント社)など