「女性アイドル歌手」は、若い男性の「幻想のなかの彼女」になることで人気を得ます。美しすぎたり歌が上手すぎたりする相手には、恐れ多くて「彼女にしたい」という妄想は抱けません。ハリウッドスターのような高嶺の花ではなく、身のまわりにひとりぐらいいるかわいい子――「女性アイドル歌手」は、そこを目ざしてプロデュースされます。プロフェッショナルに見えないよう、周到に仕立てあげられたプロフェッショナル。それが「女性アイドル歌手」です。その頂点に、正真正銘の「素人」が君臨してしまったのがおニャン子ブームでした。
おニャン子の成功は、手のこんだナチュラルメイクより、ノーメイクのほうがウケてしまった状況に似ています。ノーメイクのポイントがいちばん高いのであれば、化粧する人はいなくなります。同様に、誰でもなれるのが「女性アイドル歌手」なら、それに憧れる人はいなくて当然です。
おニャン子のなかには、工藤静香のように、しっかりとした歌唱力をもった人材もいました。それでも、グループとしてのおニャン子クラブが、「素人」の集団であることを売りにしていたことは確かです。結果、「アイドルとなるためのハードル」が下がり、「女性アイドル歌手」という称号のブランド価値は失われました。おニャン子ブームのあとに、「女性アイドル歌手冬の時代」が来たのは必然です。
■「自分を見つめる目」の確かさ
小泉今日子の「なんてったってアイドル」は、おニャン子ブームが絶頂にさしかかった1985年11月に発売されました。小泉今日子のレコーディングディレクターだった田村充義は、
<「セーラー服を脱がさないで」がその年の7月に出て、その辺りからシーンが変わって、「この先はおニャン子の天下になる、よっぽど頑張らないといけない」と思って、すごく頑張った曲が「なんてったってアイドル」です。>(注1)
と発言しています。「女性アイドル歌手」というフィールドを焼け野原にしようとしているおニャン子に対し、既成アイドル陣営が反攻をこころみたのがこの曲といえます。
小泉今日子当人は、こんな曲は歌いたくないと思っていたようです。