例えば、最近の『R-1』ではおいでやす小田、マツモトクラブ、ルシファー吉岡のように、質の高いコントを演じて何度も決勝に上がっている常連組がいるのだが、彼らは一度も優勝できていない。彼らはそれぞれのアプローチで3分の尺に合わせた見事な「芸」を披露しているのだが、それだけで勝ち切れないところにこの大会の難しさがある。

『R-1』は芸を楽しむのではなく、笑いを生み出すためのアイデアや切り口を楽しむ大会だと思う。出場する芸人によって演じるネタの種類も、笑いへのアプローチの仕方も全く違う。その混沌をありのままに受け入れて楽しむのが『R-1』を見るときの正しい作法なのだ。

 今年は決勝が無観客で行われたため、場の空気をつかむことが例年以上に困難だった。そんな特殊な状況下で泥沼の戦いを制したのは、マヂカルラブリー野田クリスタルだった。彼は自作のB級感たっぷりのゲームをプレイするというネタで現場にいる審査員を笑わせて、テレビ越しに視聴者の心もつかんだ。

 野田が披露したネタについて「単にゲームをやっているだけじゃないか。こんなのネタじゃないよ」などと批判する人もいるが、私に言わせれば、それは『R-1』を芸を見せる大会だと思っている側の意見だ。

『R-1』はルールに則ってリングの上で行われる格闘技ではなく、街角で行われる喧嘩だ。落ちているビール瓶でも鉄パイプでも何でも使って、最後に立っていた者が勝者なのだ。自作のゲームをプレイするという新しい笑いの形を示した野田こそが、『R-1』の王者にはふさわしいのである。(ラリー遠田)

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