そうやって、情熱的に役に取り組むあまり、演じることが苦しくなってしまったことがある。

ドラマの『ROOKIES』と、映画の『ROOKIES‐卒業‐』を撮り終えた後になるのかな。台本をいただくと、役のことしか考えられなくて、ナイーブな役のときは、部屋の隅でシクシク泣いてしまったこともあるし、いざクランクインとなったときに、演じるのが怖くなって、明け方に必死で走ってみたこともあります(苦笑)。役と自分との距離感が掴めなくて、一時期は、オファーを断り続けたこともあるんです」

 そんな彼を救ってくれたのは、小学校時代からずっと付き合いのある親友の言葉だった。

「『世の中には、夢が見つからない人がたくさんいる。それどころか、世界中には、ご飯も食べられない、住むところもない人がごまんといる。でも、お前はやりたいことがあって、応援してくれる人もいるのに、“オンとオフの境目がなくて苦しい”なんて、贅沢な悩みすぎる!』って一喝されました(笑)。昔からの自分を知っている仲間は、僕を甘やかしてくれなかった」

 子供の頃から、みっともない姿も恥ずかしい姿も全部さらけ出していた。彼らの前では素直になれた。

「表面的に『わかるよ』なんて一切同調してくれないし、言葉に嘘がないから、彼らの言葉はいつもすごく腑に落ちる。当時でもう10年以上付き合っていて、変わらない仲間がいる場所が、自分の帰る場所だと思うし、地元の彼らの“視点”が、人間についてイメージするときや、生き方について考えるときの原点にもなっています」

 あの時期、もっといろんな役をやっておけばよかったと後悔する一方で、「必要な遠回りだったのかな」と思うこともあるそうだ。

 どうしても“熱血”のイメージが強い市原さんだが、本人は、ずっと、食をテーマにした作品に携わりたいと思っていたという。その念願がかなったのが、1984年の中学校を舞台にしたドラマ「おいしい給食」だ。昨年秋から放送された。給食マニアの教師と生徒が、毎回「どちらが美味しく給食を食べられるか」のバトルを繰り広げる、前代未聞の“給食・バトルロワイアル・ドラマ”である。メガネをかける、1980年代という時代設定に鑑みて、ワイシャツの下にタンクトップを着るなど、すべて市原さんがアイデアを出した。

「僕の演じる甘利田は、給食を愛するあまり、食べる前に生徒と校歌を歌いながら、特徴的な動きをするんですが、それもすべてアドリブです。給食のことだけをずっと考えてきて、給食によって、自分を知る男っていうのが、どこか孤独で滑稽で(笑)。最初に台本を読んだとき、これは、誰も傷つけない、目を背けたくなるようなシーンもない。でも、ちゃんと面白い人間同士の対立の構図があって、人間のおかしさ、愚かさが描かれる。健全でスーパーポップな、黄金のエンターテインメントだと思いました」

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