オウム真理教事件の「最後の逃亡者」だった高橋克也容疑者が6月15日、逮捕された。その突然の逮捕劇から半日前、川崎市内で幻の"大捕物"が行われていた。14日午後11時ごろ、高橋容疑者が潜伏していた社員寮の近くにあるウイークリーマンションに、捜査員約50人の大部隊が踏み込んだのだ。

 この動きはインターネットで瞬く間に全国に伝えられ、動画投稿サイトでは〈高橋容疑者 これから逮捕 川崎〉と題し、現場の生中継まで始まった。
 
 ところが、結果は見事に"空振り"。翌朝、たった2人の捜査員で乗り込み、「人違いじゃないか」と見過ごしかけたマンガ喫茶が"大当たり"だったのだから、まったく笑えない。

 そもそも、あと一歩まで追い詰めた高橋容疑者に12日間にもわたる逃亡を許したのはなぜなのか。

 関係者たちが指摘するのは、地下鉄サリン事件当時から続く警視庁内部の"不協和音"だ。捜査1課などを擁する警視庁刑事部と、テロ対策などを担当する同公安部との手柄争いである。

「高橋容疑者は、逃走直後の4日に潜伏先近くの金融機関でカネをおろしていたが、これを最初に把握したのは公安部。昨年末の平田信(被告)は出頭、直前の菊地直子(容疑者)は通報による逮捕 だったため、オウム事件解決に威信をかける公安部としては『今度こそうちが自力で逮捕する。捜査1課には負けられない』と意気込んでいた。ただ、やる気が空回りした感もある」(捜査関係者)

 一方、警視庁に主役を奪われる形になった"地元"神奈川県警からは、怨嵯の声が漏れてくる。

「警視庁がすべてを握っていて、最後まで情報が下りてこなかった。これではどこを重点的に捜査していいかもわからない。勝手に持ち場に入ってきて、ガチャガチャやられて。置いてきぼりにされた屈辱に、幹部はピリピリしていました」(神奈川県警関係者)

※週刊朝日 2012年6月29日号