関係者の間ではこれまで話題にすることもタブーとされていた、引退競走馬のその後。繁殖用、乗用に転身する馬がいる一方、行き場を失い、殺処分という最期を迎える馬も。「ホースセラピー」などが受けられる滋賀県栗東(りっとう)市の施設・TCC Therapy Park(セラピーパーク)では、そうした引退競走馬をセラピーホースとして迎えるなど、支援活動を行っている。AERA 2020年3月23日号では、TCC Therapy Parkを運営するTCC Japan(TCC)の活動を取材した。
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TCCでセラピーホースとして活躍するメイショウナルトは、12歳。2010年に競走馬としてデビュー、13年に小倉記念、14年に七夕賞を制し、生涯で2億円強の賞金を獲得した一線級の競走馬だった。しかし、18年に左前脚浅屈腱不全断裂という大ケガを負い、1年程度の長期休養が必要となったために登録抹消。他団体での再調教を経て、TCCに“転職”した。
「現在、日本にはケガを理由に引退した競走馬が一時的に療養できる場所はほとんどありません。メイショウナルトほど活躍した馬ですら、引退後の行き先やアフターケアは提供されていないのが実情です」(TCC代表の山本高之さん)
TCCはこうした馬のために、4頭分の「ホースシェルター」を常設。現在も、4頭の引退競走馬がケガなどの治療を行いながらセカンドキャリアへの準備を進めている。
「メイショウナルトのような重賞で勝つほどの馬は我が強く、あまり人に甘えないので、セラピーホースへの転用は難しい場合が多いのですが、賢い彼はうまく順応してくれました」
もう一頭のセラピーホース・ラッキーハンターは9歳。13年に競走馬としてデビューしたが、芳しい成績を残せないまま16年に登録抹消。「競走馬には向いていなかったけれど、乗用馬には向いている」という調教助手のすすめもあり、TCCにやってきた。以来、持ち前のやさしい性格で、セラピーホースとしての才能を十分に発揮している。
だが、そもそも速く走るために訓練され、闘争心を植えつけられてきた競走馬がセラピーホースになれる可能性は、それほど高くはない。