ももさんの自宅は東京にあり、高校生の長女と小学6年生の長男、同4年生の次女、そして妻を残して単身赴任中。それなりの仕送りができていた。
だが2月以降、スケジュールはほぼ白紙の状態が続いている。
「私は車両整備責任者なので、2月の給料は運行・走行距離手当がなくても20万円以上ありました。ところが今月は11万円ちょい。手当どころか基本給すらカットされたんです」
他のドライバーたちの給料は数万円。とても生活できる額ではない。しかも労働組合がないため団体交渉もできず、休職扱いにしてダンプやトラックのアルバイトをする人、見切りをつけて離職する人、それぞれが最善と思う道を歩み始めた。
「私は、もうしばらく残ることにしました。というのは、自動車整備士は私しかおらず、退職してしまうとバスを動かすことができなくなるから。早い話、会社が潰れてしまうんです。今回の給料カットは、新型コロナが悪いのであって、社長だけに責任を負わせるのはかわいそうですよ」
ももさんの会社は、以前から日本人ツアーも売り上げの2割ほどあった。その比重を高めるべく社長がトップセールスを行い、ももさんも人脈を頼りに営業活動を行っている。
だが、考えることは他社も同じ。しかも昨今の自粛ムードの中、日本人ツアーすら激減しているのが実情だ。
前出の成定代表は言う。
「しばらく、ドライバーは仕事がないでしょう。適性最優先ですが、ドライバーが貸し切りバスからより安定した路線バスへ転職するいい機会かもしれません」
災い転じて“福”とは言い難いが、路線バスの人手不足が一時的に解消するかもしれない。(高鍬真之)
※週刊朝日 2020年3月20日号に加筆

