42年ぶりに、国内すべての原子力発電所が止まった。投資助言会社「フジマキ・ジャパン」の代表を務める「伝説のディーラー」、藤巻健史氏は、電力不足対策の特効薬を提案する。

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 経済産業省の審議会が5月28日、2030年時点で国内電力のうち原発の割合をどれくらいにするか、4つの選択肢を最終決定したという。それによると、原発の割合が10年度(26%)とあまり変わらない「20縲鰀25%案」では、30年時点の「月間の家庭向け電気料金」は1万6400縲鰀1万9200円。一方、「0%」にすると1万7600縲鰀2万3100円とのこと。二つの案では月1200縲鰀3900円の差が出るそうだ。

 月々3900円の差は大きいかもしれないが、それでも、万万が一のとき、日本の半分が住めなくなるような事故が防げて、子どもの健康も守られるのだ。そういうことのためにお金は使うべきだ、と私は思う。月々3900円のために子孫を危険にさらすのは嫌だ。

 将来、大幅な円安が進めば、火力発電の燃料は輸入に頼っていることから料金の差はもっと大きくなるかもしれない。しかし、円安で景気が大回復して給料が倍増すれば料金の大幅上昇には耐えうるはずだ。

 企業にとっても同じだ。円安による輸出拡大で増益となり、電気科金の大幅上昇を十分吸収しうる。たしかに原発廃止は、産業空洞化の加速や国際競争力の低減の一要因だろう。しかし円高に比べたら影響が小さい要因にすぎない。ここでも加重平均の思考が重要なのだ。
「円安政策」という特効薬を使わずに「原発を再開しなければ日本の企業は競争力を失うし、国内の空洞化も進む」と主張するのは、まやかしだと私は思う。

※週刊朝日 2012年6月15日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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