新型コロナウイルスの影響でライブ公演中止を発表したボブ・ディラン。ロンドン出身の音楽評論家で、著書に『ロックの英詞を読む』などがあるピーター・バラカンさんは、1978年のディラン初来日ライブも日本武道館で見た筋金入りのディランファンだ。AERA 2020年4月6日号では、バラカンさんにディランの魅力について話を聞いた。
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私が最初にディランを聴いたのは2枚目のアルバム「The Freewheelin’Bob Dylan」(1963年)でした。ビートルズの誰かがラジオでディランを「すごいアーティスト」と紹介したのです。すでに私はビートルズの大ファンだったので、「そこまで言うなら」と聴いてみました。子どもながらに気に入ったのを覚えています。
ディランのメッセージ性のピークは、その次の「The Times They Are A−Changin’」(64年)でしょう。すべての曲に強烈なメッセージがありました。
このレコードの影響力はすごかったのですが、ディランはそのために「世代の代弁者」と言われるようになります。でもまだ彼も20代前半で、泡食っちゃったんでしょう。それ以降、わかりやすいいわゆるプロテストソングからは距離を置いています。
私は60年代の黄金時代の歌にあるいくつもの言葉に、無意識に影響を受けました。私の座右の銘は、ディランの傑作「Like a Rolling Stone」の一節です。
When you got nothing, you got nothing to lose
何も持っていなければ失うものがない、という意味。すごいと思いました。失うものを持っていない状態が一番強い状態ですよね。冒険もできるし、臆することもない。ズキンときました。一つの価値観としてとても大切なものだと思いました。
ディランの歌詞がノーベル文学賞にふさわしいかどうかわかりませんが、文学として扱われてもおかしくないとは思います。詩人のような人ですから。