「世紀の大偉業だ」
関係者がこう称えたのは、京都大学数理解析研究所の望月新一教授だ。これまで未解明だった数学の超難問「ABC予想」を証明したとする論文を2012年に発表し、その正しさが認められたことで、同研究所が編集する専門誌「PRIMS」(ピーリムズ、発行は欧州数学会)に掲載されることが決まった。京都大学によると、論文はA4サイズにして約600ページで構成された大作である。
公私にわたり20年以上の交流があり、ABC予想に詳しい東京工業大学の加藤文元教授は「数百年に1回の革命的な成果だ」と賛辞を惜しまない。
「私は世紀の大偉業だと思っている。ノーベル賞を1つや2つあげても足りないくらいではないか」
そもそも、ABC予想とはなんなのか。一言で表すなら「整数の足し算とかけ算にある相関関係の証明」(加藤教授)だ。以下に記す命題が、「ABC予想」である。
「共通の素因数をもたない自然数a,b,cがa+b=cを満たすとする。積abcの素因数分解に現れる互いに異なる素数すべての積をrad(abc)と書く。このとき任意の整数εに対して、a,b,cに依存しない整数K=K(ε)が存在して、
C<K(rad(abc))**1+ε
が成り立つ。」(京都大学の広報資料より抜粋)
これだけみても、記者も含め、ほとんどの人は意味が解らないだろう。まずは、a+b=cという簡単な数式を思い浮かべてほしい。ここに例えば、a=1、b=8を当てはめてみる。すると、1+8=9=cということになる。
そして、a,b,cを素因数分解する。Bの8は「2×2×2」となるので素因数は2だ。Cの9は「3×3」となるので素因数は3になる。Aは1なので素因数はない。これらの積を求めると「2×3=6」となる。
これら二つを比較すると、和で導き出したc=9が、積である6よりも大きくなることがわかる。だが実際には、無限にあるa,b,cの組み合わせのうち、ほとんどは積が和より大きくなるとされている。ABC予想とはこの「ほとんどの場合、積が和よりも大きくなる」ということをのべた命題だ。だがそれはあくまで“予想”であって、それを実際に“証明”し、「定理」へと進化させることは長年、誰もできずにいたのである。これを証明したのが望月教授だ。