「足し算的な側面と、かけ算的な側面を比較し、その関係を述べている式です。この二つの間に常に成立するような不等式の法則があるはずだと。これが世紀の難問だったわけです。今回の証明により、そのほかの数々の数学の難問の解決が一気に近づきました」(加藤教授)

 望月教授がABC予想を証明する論文を発表したのは2012年8月のことだ。そして今回、その正しさが客観的に認められ、専門誌への掲載が決まったのが今年2月のことである。あまりに難解なため、望月教授を除いた編集委員たちによる査読に約7年半もの時間を要した。

「一般の人の目からすれば時間がかかったように思われるでしょう。しかし、何しろ600ページもある論文です。私個人の感想としては、予想よりも早かったなと思います。望月教授の理論は、あまりに斬新なものですから、学会にはすぐに受け入れられないと思っていました。数十年はかかることを覚悟していましたが、認められてよかった」

 ところで、望月教授とはいったいどんな人物なのか。

「彼はとても気さくで、二人でよく議論を重ねたものです。お肉が大好きで、彼と食事をするときはいつも焼肉なんですよ(笑)。学問的なことなので、この7年半、他の研究者らからやや厳しい視線を向けられることもあったと思いますが、彼の芯にある強さが今回の偉業に結び付いたのではないでしょうか」(加藤教授)

 この大偉業は、私たちの生活に一体なにをもたらしてくれるのか。

「この数年で具体的になにか影響があるかといえばそれはありません。ですが、例えば今我々が持っているICカードの技術っていうのは、18・9世紀にかけて導き出された楕円関数論に基づいている200年の前のことが、現代に息づいているわけです。今回の論文が、将来の人類にイノベーションを与えてくれる可能性は大いにあるのではないか。それがなんなのかは、難しすぎて予測すらできません」

(AERA dot.編集部/井上啓太)

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