数々の名作を生み出してきた黄金コンビである三谷幸喜さんと香取慎吾さんが、Amazonプライムビデオで挑戦する「シットコム」形式のドラマ「誰かが、見ている」。三谷さんの急な要望にも瞬時に対応する香取さんの俳優としての魅力に迫る。AERA2020年4月13日号の記事を紹介する。
※【前編】「三谷幸喜と香取慎吾の対談はまるでコント? 名コンビで最新作を制作中」より続く
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公開リハーサルは、頭から終わりまで通しで2回行われた。2回目のリハーサルのとき、スタジオの後方から全体を見ていた三谷さんが、セットの端に駆け寄り、何かジェスチャーをした。すると、香取さんは咄嗟に1回目のリハーサルではやらなかったある動きを加えた。三谷さんのほうを見るそぶりはなかったのに、だ。
その様子を見て、三谷さんは満足そうにうなずいた。
香取:僕からこうしたいと提案することはゼロですけど、言われたことは100で返したい。記者の皆さんも2回見てくださったと思うんですけど、1回目のリハーサルではプリン食べてなかったじゃないですか? 2回目、急に三谷さんが来てこう……(食べるジェスチャーをする)。
三谷:香取さんのキャラはプリンが好きな設定なんです。今回とりあえず小道具としてプリンを用意してもらったんですけど、食べるチャンスがなくて。1回目のリハをやった後に、あの場面で食べてもらおうと思ったんですが、伝えるのを忘れちゃって、リハーサルが始まって思い出したんです。舞台の場合、普通は始まってから舞台上の俳優さんにその場でお願いすることはありえない。役に入って集中している方の目線のなかに入って指示しても伝わらないから。でも付き合いが長い香取さんだったらわかってくれるんじゃないかと。ある種、賭けに出たんですけども、ちゃんとわかって食べてくださいました。
香取:振り返ったらプリンがあった。プリンがあるってこと、知らなかったんですけど。
三谷:あれ、そうなの?
香取:はい。でもプリンがあったから「これだ!」と。で、食べた。
三谷:素晴らしいですよね。普通は「え?」「なになに?」みたいな間があるじゃないですか。それもなくて一瞬ですから。
香取:リハーサルでしたけど、本番の気持ちでいるので「え?」とは言えないじゃないですか。
三谷:いやでもね、普通はできないですよ。それか、無視。なんか三谷が言ってるけど無視だっていう(笑)。
香取:三谷さんの作品ならではの楽しみは、無茶なこととか、よくわからないこととかに応えることですから。