※写真はイメージです(写真/Getty Images)
※写真はイメージです(写真/Getty Images)
西田医院院長の西田伸一医師
西田医院院長の西田伸一医師

 自宅で療養している高齢者が自宅での看取りを希望していても、周囲の人が「意識がない」「息をしていない」などの様子を見て慌てて救急要請してしまうことがあります。しかし、落ち着いて本人の希望を思い出し、到着した救急隊に「やはり、心肺蘇生はしないで」と告げるケースが増えているといいます。東京消防庁では、2019年12月16日から、条件を満たせば心肺蘇生をしない運用を始めています。

【写真】教えてくれたのは西田医院院長の西田伸一医師

*  *  *

 救急隊は、心肺停止の人に対しては、胸骨圧迫、AEDによる電気ショック、人工呼吸などの救命措置を行いながら、受け入れ医療機関を探し、そこへ一刻も早く搬送することを任務としています。いったん要請を受けると、「心肺蘇生をしないで」と家族や介護関係者などに言われても、法律で定められた任務を原則として止めることができません。

 しかし、総務省消防庁の実態調査では、2017年までに約85%の消防本部が、現場で心肺蘇生を望まない意思を伝えられたケースを経験していると報告されています。

 現場で心肺蘇生を望まない意思を伝えられると、救急隊は、救命活動という任務と高齢者本人の希望との間で葛藤することになります。結果的には、任務について説明し理解を得てから搬送するケースもありますし、かかりつけ医が電話で救急隊に指示し現場に駆けつけることで心肺蘇生の中止に至るなどのケースもあります。いずれにしても現場での対応に時間がかかり、その間に別の救急要請に応じることができなくなります。

 こうした状況を背景に、対応方針を定めている消防本部もあり、その数は2017年7月1日現在、728消防本部のうち、45.6%に当たる332消防本部です(総務省消防庁の実態調査)。また、その対応方針の内容は、次のように主に二つに分かれます。

(1)心肺蘇生を望まない意思を伝えられても、心肺蘇生を行いながら医療機関に搬送する(201消防本部、例:大阪市消防局)
(2)医師からの指示など一定の条件のもとに心肺蘇生を実施しない、または中止する(100消防本部、例:広島市消防局、埼玉西部消防局)

次のページ
心肺蘇生中止の対応方針のポイントとは?