大型連休中に登山者6人が死亡した長野県の北アルプス・白馬岳(2932メートル)。死亡した人たちは63~78歳。吹雪の中で低体温症にかかったのが原因とみられている。パーティーのメンバーには、1人を除いて長い登山歴があり、アフリカ大陸最高峰キリマンジャロの経験者もいた。山の危険性について知識はあったはずだ。
ところが、5月5日朝、白馬岳北方の尾根で見つかった遺体は、全員、シャツの上に雨具やジャンパーという「軽装」だった。しかも、そばに落ちていたリュックには、防寒着がちゃんと入っていた。
1981年、ヨーロッパで山スキー中にクレバスに転落し、低体温症で重体になった経験のある登山家、苫小牧東病院の船木上総(かずさ)医師は、「低体温症の危険性を、もっと深く知ってほしい」と警鐘を鳴らす。
低体温症は、身体の表面ではなく、コア(深部)の体温が35度以下に下がると起こる症状だ。最初は身体が震え始め、さらに体温が下がると、次第に筋肉が動かなくなり、意識がもうろうとする。正常な行動を取れなくなり、そのまま死に至るケースもある。ちなみに、コアの体温は普通の体温計では測れない。「食道温度計」や「耳式体温計」が必要だ。
「低体温症にかかる3大要因は『低温』『風』『濡れ』だということを、まずしっかりと頭に入れてください。『濡れ』とは雨や雪、汗による身体の濡れで、熱を非常に奪います。気温が何度以上あったら安全といった目安はなく、悪条件が重なった場合は10度でもかかる恐れがあります」(船木医師)
※週刊朝日 2012年5月25日号