浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演
浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演
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 経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。

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 WHO(世界保健機関)が窮地に陥っている。WHOが中国の肩ばかり持つというので、トランプ米大統領が怒髪天を衝(つ)いた(あの人の髪が天を衝くとどんな感じになるのだろう。いや、こんな妄想にふけっている場合ではない)。怒りにまかせて、WHOへの資金拠出を一時停止すると宣言したのである。この間に、新型コロナウイルスによる感染拡大に対して、WHOが適切に対応してきたか否かを検証するという。

 米国はWHOにとって最大の資金拠出国だ。最新時点の2018年には、所定の拠出金に自主的加算分を含めて、2.81億ドルを提供している。ちなみに、アメリカに次ぐポジションにつけているのが、ビル&メリンダ・ゲイツ財団だ。同年に2.29億ドルを拠出した。

 当然ながら、トランプ大統領のこの暴挙に対しては、世界中で非難の砲火が上がっている。ご本人は、「最大スポンサーとして、アメリカには、WHOに全面的説明責任を求める義務がある」と息巻いている。だが、これは通用しないだろう。そもそも、国際機関に関して「スポンサー」気取りをするのが、心得違いだ。国際機関は国際的公共財だ。会員制クラブではない。高額スポンサーに特典を与えるようなことがあってはならない。

 しかも、今のこの情勢下である。全人類挙げて、全人類の保健のために協調しなければならない。助け合わなければならない。分かち合わなければならない。その時に、全人類的な保健のための中軸機関に対して、態度が気に食わないからというので、資金の流れを止めるとは何事か。呆れてものが言えない。あごがはずれる。

 WHO側にも、問題はある。そういう声は少なくない。中国びいきが目に余る。この批判は絶えない。テドロス現事務局長は、中国の回し者だ。そんな陰謀説さえ飛び交う。根拠のほどは、筆者の知る由もない。総じて、政治に振り回され過ぎたと言われる。恐らく、これはその通りなのだろう。だが、それはそれとして、今、我々はみんなでWHOに希望を託さなければいけない。WHOのHをhope(希望)のHに仕立て上げていかなければならない。それが全人類的責務だ。

AERA 2020年4月27日号