ドラマの中で明智十兵衛(光秀)が着ているのも、織田信長が着ているのも小袖である。ただ、「麒麟がくる」は「4K撮影なので、鮮やかに見えるでしょうね」とも佐多さんは付け加える。
高価であるため貴族のような権力者しか着ることができなかった絹の着物が、生産性と技術の向上で貴族から武士に広がっていったことも小袖が発展した要因であるという。
「武士にとって絹を着られるようになるのは、ある種の権力を得た証しの一つで、ステータスだったのです」(佐多さん)
つまり戦国期は、支配層にしか許されなかったおしゃれな衣服が、武士をはじめとした層にも広がった時代であったのだ。
服装に変化をもたらしたのは、人々の意識が変わったことも大きいと佐多さんは続ける。
「中世は、中央集権の律令国家から脱却し、日本人が現代につながる『個人』のアイデンティティーを確立しはじめた時代でもあるのです。中世の後半である戦国期は、室町時代が終わり、幕府の支配が弱まったため、それまで抑えつけられていたものがあふれだした印象です。それが服装にも表れているのでしょう。中世は日本のおしゃれのはじまりなのでしょうね」
(文/本誌・鮎川哲也)
※週刊朝日 2020年5月1日号