「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰 糸井重里さん(71)/1948年生まれ。コピーライターとして一世を風靡し、作詞、文筆、ゲーム制作など多彩な分野で活躍。98年に毎日更新のウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を立ち上げ、同サイトでの活動に全力を注ぐ (c)朝日新聞社
「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰 糸井重里さん(71)/1948年生まれ。コピーライターとして一世を風靡し、作詞、文筆、ゲーム制作など多彩な分野で活躍。98年に毎日更新のウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を立ち上げ、同サイトでの活動に全力を注ぐ (c)朝日新聞社

 4月9日、糸井重里さんは自身のツイッターに一言「責めるな。じぶんのことをしろ。」と書き込み、いわゆる“炎上”状態になった。政権を責めるなと言っていると誤解され、政権擁護の発言だと受け取られた。1970年代からコピーライターとして第一線を走り続けてきた言葉のスペシャリストは、コロナ危機を取り巻く言葉をどう見ているのか。AERA 2020年5月4日-11日号から。

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 いまネットニュースの見出しを見ると、「誰が誰のことを怒った」という話ばかりがずらーっと並んでいて、絶えず誰かが誰かを責め立てている。それを見たとき、「あれ? こういうことだけがニュースなのかな」と思ってあれを書いたんですけど、うまく伝わりませんでした。こちらは政治家の話をしているわけではないんですが、頭の中が政治に対する不満でいっぱいの人たちにはそう受け取られてしまったんですね。

 こういうとき、言葉は不自由になる。そもそも言葉というものは不完全ですからね。「いやぁ、晴れて良かったね」という言葉ですら、水不足に苦しむ人が聞いたら不快に思うかもしれない、そういう宿命を持っている。

 僕は東日本大震災のころから、言葉を“押し出す”のではなく“置く”ように使いたいと思っているんです。人によって受け取り方が違ってしまうのは仕方ないとしても、「その言葉が置いてあってホッとした」というようなことができたらいいな、と。いまだに上手ではないですけどね。でも、それでいいと思っています。上手だと、その都度頭を働かせなくても、テクニックでできてしまうかもしれないから。

――では、糸井さんにとって「じぶんのこと」とは何か。

 それを考えるあまり、逆に身動きが取れなくなってしまっては困るので、まずは「できないことを考えない」ということも大切。こういうときこそ動物のまねをすればいいと思うんです。つまり、あまり範囲を広げずに、家族だったり、一緒に仕事をしている仲間だったり、そういう自分の“群れ”の中でいま何ができるだろうかと考える。それが共倒れにならないためにすごく重要なことだと思います。

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