同社が今回、政府に納品したマスクは、中央部分が前方に膨らむ形。同タイプのマスクは男性用のブリーフパンツを思わせるシルエットから、ネット上ではいつしか揶揄するニュアンスも含んで「アベノブリーフ」などとも呼ばれるようになっている。「サイズが小さい」「ひもがゴムではなく布製のため耳にかけられない」と機能面を批判する声もあるが、樋山社長は「現在のところ、うちの納入したマスクに不良品があったという報告はない。評判は良いと聞いている」と言う。
現地の写真を見ると、広大なスペースの工場に数十台のミシンが並び、三角巾をつけた女性作業員たちがマスクを縫製していた。その隣には、完成したマスクの山を袋詰めする作業員の姿も写っている。樋山社長は、現地の様子をこう説明する。
「僕もそうだけど、ベトナムに滞在しているうちの駐在員も、ほぼ寝ないで作業していた。ホテルに帰る時間がもったいないって言って、工場に段ボールを敷いて寝ている写真を送ってきましたよ。僕は元自衛官で、そいつが『段ボールって暖かいですね』って言うから、『新聞紙をかけるともっと暖かいぞ』って教えてあげました。『本当だ』って、返事が来ましたよ」
品質管理については、マスク用の布を洗浄殺菌し、乾燥時にさらに熱による殺菌を実施するなどの注意を払っていると強調する。
「検品も厳しくしていて、うちの駐在員は不良品を発見したら、激怒して再確認させていた。不良品といっても、『畳み方が雑だ』という程度ですが。『一度舐められると国の威信にかかわる。ここまでやらないといけない』と言っていました」(樋山社長)
資金繰りの問題を考えなければ、この工場では1カ月で約5千万枚のマスクが生産可能だという。しかし、今回ユースビオの社名が公表されてからネット上などで騒がれたことも影響し、樋山社長は今後、マスク輸入を継続することは考えていないという。