米海軍の空母で新型コロナへの感染が相次ぎ、世界各国の軍隊でも感染が広がる。感染防止と経済対策への巨額出費が、図らずも世界的な軍縮を実現しそうだ。 AERA 2020年5月4日-11日号では、軍縮せざるを得ない切実な事情に迫る。
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空母ルーズベルトの感染者は、4月17日には669人に増え、13日には1人が死亡した。同艦には保安要員約1千人だけが残っているようだ。このほかにも横須賀で定期整備中の空母「ロナルド・レーガン」で感染者2人、空母「カール・ビンソン」で1人、空母「ニミッツ」でも1人が感染している。
米海軍だけではない。フランスの原子力空母「シャルル・ドゴール」(4万3千トン)では4月8日、NATO海軍の演習中、乗員約40人の感染が判明。急ぎトゥーロン港に帰港、検査すると乗員約2300人中1081人が陽性だった。この演習に参加していたベルギーのフリゲート艦でも感染者が出た。台湾海軍も4月18日、練習艦で24人が感染したと公表した。
軍艦は攻撃を受けてもすぐ沈まないよう多くの水密区画に仕切られ、乗員の大部分は2段、3段ベッドで眠る。食堂なども混雑し、通路は狭く、階段は揺れても昇降できるよう左右の手すりを握れる幅になっている。「ソーシャルディスタンス」を保つことは不可能で、窓もほとんどない。換気扇を回してはいるが、むしろそれがウイルスを艦内に拡散させる危険性もある。
潜水艦はさらに狭く、「密閉、密集、密接」の極致だ。ロシア、オランダの潜水艦に感染者が出たとの情報も流布している。感染した乗員を下船させ、艦内を消毒しても安全ではない。症状が出ない感染者が1人でも検査を逃れて乗船すればたちまち艦内感染が広がるのだから、海軍にいること自体が冒険だ。
米軍は3月25日から60日間、海外での米軍の移動を原則禁止しているが、それをさらに60日間延長する様子だ。それ以外に有効な予防手段はないのだろう。「米海軍が出動できないと、中国海軍が海洋の覇者となる」との論も出るが、新型コロナの危険はどの国にも共通で、大局的には打ち消し合う要素だ。