第2相臨床試験の結果もクリアとなれば第3相臨床試験に進みます。第3相臨床試験では100人から数百人の患者さんを対象に、これまで使われてきた薬やプラセボ(偽物の薬)と比較して有効かどうかを検討します。
スタートの薬の候補が1万個あったとしたら、最終的に薬になるのが1個の確率です。薬剤の開発というのは時間とお金がかかります。
新型コロナウイルス感染症の治療には、「アビガン」も有力な候補として名前があがっています。アビガンは新型または再興型インフルエンザウイルス感染症(ただし、ほかの抗インフルエンザウイルス薬が無効または効果不十分な場合に限る)として、すでに国内で承認を得ている薬剤です。インフルエンザでのデータがある薬剤ですので、新規化合物から開発するよりずっと時間が短縮できそうです。
実際に、国内ではアビガンを投与された新型コロナウイルス感染症の患者さんがいらっしゃいます。そして患者さんの体験談を聞くと「とてもよく効きそうだ」と感じます。
ところが、専門家の多くは「アビガンが新型コロナウイルス感染症に効くと早急に結論づけてはいけない」と訴えています。
これはどういうことでしょうか。
私には、新薬の開発に関わる忘れられないエピソードがあります。
がんの新薬であるオプジーボ(免疫チェックポイント阻害剤の一つ)は2018年、本庶佑(たすく)先生がノーベル医学生理学賞を受賞したことで大きな注目を集めました。今までになかった免疫チェックポイント阻害剤という薬はとても効果を発揮する患者さんがいる一方で、全く効果の出ない患者さんもいました。
より多くの人に効果が出るように、世界中でオプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤と新規薬剤の併用投与の臨床試験が組まれました。
組み合わせの候補として当時最有力だったのはIDO-1阻害剤という薬です。IDO-1阻害剤はオプジーボとは違う作用で抗腫瘍効果を発揮する薬剤で、第2相臨床試験の結果でもかなり高い奏効率がみられました。
私も当時、IDO-1阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤の併用療法には大きな期待を寄せていました。第3相臨床試験がはじまり、私も治験担当医師となりました。第3相臨床試験はダブルブラインド試験となり、患者さんも治験担当医師も使っている薬が本物か偽物(プラセボ)がわかりません。それでも一部の患者さんは免疫チェックポイント阻害剤だけより効果が出ている印象を受けました。この患者さんは実薬に違いない。私は確信を持ちました。治験を担当している日本中の医師からも同様の声が伝わってきました。