「新党構想」が頓挫した代わり、「尖閣諸島を購入する」と大見えを切ってみせた東京都の石原慎太郎知事。唐突に思えた発言だが、実は「40年来の悲願」だった。

  石原氏が衆院議員だった1970年代にさかのぼる、自身が名を連ねた自民党のタカ派集団「青嵐会」が尖閣諸島に灯台を造ったころ、石原氏は地権者に「島を売ってほしい」とかけ合っていた。

 地権者である埼玉県在住の60代男性Kさんと30年来の付き合いという自民党の山東昭子参議員が語る。「当時、石原氏の交渉相手はKさんの母で、『政治家は信用できない』と断られた。Kさんが島を相続した後は、国を含め方々から売却を持ちかけられたが、省庁間の駆け引きもあって政府とは合意できず、他の個人は『氏素性がわからない』と売却しませんでした」

 だが、2010年に尖閣沖で起きた中国漁船衝突事件や自身の年齢も考え、Kさんの気持ちは売却へ傾く。石原氏の政治信条にKさんが好感を持っていたこともあり、昨年9月に山東氏が2人をKさん宅で引き合わせた。

「石原氏は数年前に亡くなったKさんの母親に線香を上げ、当時の思い出話で盛り上がりました。その後改めて会食した際に石原氏が『尖閣を売ってほしい』と切り出した。Kさんも『機が熟したらあなたには売ります』と応じ、男と男の約束を交わしたのです」

 ただし、東海大学の山田吉彦教授(海洋学)はこう見る。

「都が尖閣を買うのは現実には難しい。むしろ石原氏の狙いは、『国がやらないなら都がやるぞ』という政府への脅しではないか。一方で政局絡みの思惑も感じます。保守を束ねて新たな政治勢力を作るのに、尖閣は格好のテーマです」

 石原氏の"盟友"西村真悟元衆院議員もこう語る。

「尖閣問題で中国に弱腰の者とは組めないというメッセージでしょう。小沢一郎氏のように、議員を140人も連れて中国へ写真撮影に行く人間とは組めないということです」

 中国に狙われたかと思えば、政局の"踏み絵"に使われ……。尖閣とは、つくづく悲しい宿命を背負わされた島である。

週刊朝日

 2011年5月4・11日合併号