だが、コロナ時代に入り、リモート収録が一般的になった今、ガヤ芸人は存亡の危機に直面している。5月10日放送の『あたらしいテレビ 徹底トーク2020』(NHK)では、新時代のテレビがどうあるべきかについて、制作者やタレントが集まって自由に語り合っていた。そこでテレビ東京プロデューサーの佐久間宣行氏がリモート収録についてこんなことを述べたのだ。

「あと、ガヤ芸人が邪魔っていうのがあります。(中略)あんなにスタジオ収録だと助かったガヤ芸人が、リモート収録だとただ(音声が)カブるだけなんで」

 音声の状態が不安定なリモート収録では、一人一人が順番に話をすることになる。そこでガヤが入ると聞き取りづらくて邪魔だというのだ。ガヤ芸人にとっては死刑宣告に等しい言葉である。

 テレビのバラエティ番組にはショーとしての一面がある。制作者はスタジオをキラキラした憧れの空間にすることにこだわってきた。派手なセットに囲まれて、華やかな衣装を身にまとったタレントがズラッと並んでいる。それがテレビにとって重要なことだと信じられてきた。

 だが、コロナ時代が到来して、それが物理的に実現困難な状況に陥っている。スタジオに出られる人の数は限られている上に、出演者同士も不自然に見えるほどの間隔を空けなくてはいけない。観客を入れて収録をするのも難しい。リモート中継では画質や音質が悪いこともある。そんな中で、ショーとしてのテレビ収録の盛り上げ役を担ってきたガヤ芸人も危機に追い込まれているのだ。

 ガヤ芸人の存在意義は、表には見えない部分にある。縁の下の力持ちとしてバラエティ番組に貢献してきた彼らが、コロナ禍に巻き込まれているのは気の毒と言うしかない。この状況が一時的なものであればいいのだが、現時点ではまだ出口が見えない。彼らのガヤで気楽に笑える世界が1日でも早く訪れることを願っている。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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