左から主演のオリビア・コールマン、サム・メンデス監督
左から主演のオリビア・コールマン、サム・メンデス監督

「アメリカン・ビューティー」で知られるサム・メンデス監督最新作「エンパイア・オブ・ライト」が公開される。1980年の英国南部の町の映画館で繰り広げられる人間ドラマは、メンデス監督の個人的な思いも色濃く投影された秀作だ。

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 ケンブリッジ大学在学中から、舞台演出家としてのキャリアを歩み始めたメンデス監督。長編映画デビュー作となった「アメリカン・ビューティー」(1999年)は絶賛を浴び、米アカデミー賞では作品賞をはじめ計5部門で受賞。以後「007 スカイフォール」「007 スペクター」「1917命をかけた伝令」など次々と話題作を手がけ、英国が誇る名監督となった。

 最新作の「エンパイア・オブ・ライト」は1980年のクリスマスシーズン、英国南部の町、マーゲートにある映画館で働く主人公ヒラリーと同僚らとの交流を描く。心の病や人種差別、映画や音楽への愛も温かく綴られる。

 メンデス監督自身が、心を病んだ母と過ごした10代のころの思いや、人格形成に大きな影響を及ぼしたさまざまな出来事がスクリーンに投影されている。アールデコ様式の映画館や、英国南部の景色も美しい残像となって心に刻まれる。

──本作はあなたの作品の中で最も私的な内容だとされています。

「机に向かい今回の脚本を書くのはある種のカタルシスだった。自分の人生の断片を映画として作り上げるのは初めてで、奇妙な体験だ。過去作ではいつも脚本家と一緒に話し合いながら脚本を温めてきた。今回はそんな人がおらず、鏡に向き合うように自分と対峙することになったんだ」

──映画館を舞台に、さまざまな人が行き交い、多くのテーマがうまく物語に織り込まれています。

「ご指摘のとおり、まさに映画館が人生の交差点になっている。ここで人々は出会い、人生が交差し、つながる。常識的ではない家族というものに、僕は非常に興味があった。僕の作品のなかで、繰り返されるテーマなのだと思う。僕は母ひとり子ひとりの家庭で育ったので、一般的な家族を知らない。演劇や映画に登場する常識的ではない家族に、温かさや包容力を感じて育った。それが今回の内容に行き着いた理由かもしれない。

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