──音楽も印象的です。

「音楽は10代のころから常に必須の、僕の人生の伴侶だ。音楽を聴いたときにしか体験できない世界が自分の中にある。本作で描いたころの僕は16歳で、カセットテープやレコードで簡単に聴ける音楽が映画より身近だった。映画館でしか観られない映画は一大イベントだった。家にはビデオもなかったし。誰もが簡単に、スマホでいつでもどこでも好きな映画が観られる現在からは、想像し難い時代だったよね(笑)」

──昨年末、スカのパイオニア的バンド、ザ・スペシャルズのテリー・ホールが他界したのを機に、80年代当時の映像がソーシャルメディアで再注目されました。この映画も同様に、80年代の英国を再考するきっかけになるのでは?

「そう思う。だからこそ僕らは映画を作るのだと思う。緊張感があるあの時代を蘇らせることができるのはシネマの力だ。YouTubeのコンテンツを見ただけでは、本物の時代感はつかめない。音楽は永久に生き続ける。

 たとえばザ・ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を今聴いても全く現代的なことに驚かされる。逆に最近リリースされた楽曲でも、すでに時代遅れに聞こえるものもある。ザ・スペシャルズのアルバムはいつどんな時代に聴いても良さがわかる。ザ・ストーン・ローゼズやザ・スミスやオアシスやブラーの1枚目などと同様に。偉大なバンドの、偉大なアルバムはいつの時代に聴いても今日的で意味を持つものなんだ」

(高野裕子=在ロンドン)

週刊朝日  2023年2月17日号

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