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 今回は映画館で働きながら一人で生活している女性が主人公という設定にしたかった。それが決まると、構想がどんどん広がっていった。10代の思い出が大きなインスピレーションとなった。あのころ観た映画、聴いた音楽、僕の政治的な視点を築くことになった当時の出来事、サッチャー政権やそれに対抗する勢力。人種間の摩擦の一方で、黒人と白人の若者が一緒にバンドを組むといった融合もあった。そういう全部をこの映画に寄せ集めてみたいと思ったんだ」

──主役のヒラリーを演じたオリビア・コールマンは「メンデス監督はドラマ『ザ・クラウン』を観て私を思い浮かべてくれたのだと思う」と話しています。

「脚本を3分の1ぐらい書いたところで『ザ・クラウン』を観て、彼女こそヒラリーだと感じた。完成するころには、オリビア以外の俳優は考えられなくなった。彼女との仕事は心から満足できる体験だった。共作する脚本家がいないことを彼女が埋めてくれた。撮影監督のロジャー・ディーキンスとともに、彼女が僕の片腕ともいえる存在だった」

──本作で描かれた80年代の英国の人種差別から、現代の私たちは何を学べるでしょうか?

「人種差別は、僕の子どもや孫の世代にまで続くと感じる解決の難しい問題だ。心の病に対しても同様だ。偏見は簡単になくならないだろう。真正面から語り合う日は遠い。僕はこれらの問題を議論するのではなく、本作を通じてドラマとして見せた。脚本執筆中にも、世界中で状況を改善しようとする動きが巻き起こっていた。現状が80年代からいかに改善されたかを示したつもりだ。同時に、変化していない点にも触れた。そして滅びゆく映画館という事態。20年代に誕生した大衆文化の殿堂である映画館が、ゆっくりと消えてゆく様子を僕らは目の当たりにしている。それは否定できない事実だ」

──80年代の英国をスクリーンに忠実に再現されています。

「あの時代を生きてきたので、時代劇を作っている意識は全くなかったのだが、再現という意味では設定が1880年代の映画と同様に大変だった。建物や車、郵便ポストにいたるまですっかり変わってしまったからね。正直なところ、想像していたよりずっと難しかった」

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