年金を消失させ、虚偽の報告をしていたAIJ投資顧問。この「虚偽報告」が起こった背景として、投資助言会社の代表を務める藤巻健史氏は、AIJ社長の「修羅場経験」のなさによる「嘘」が原因なのではないかと考えている。
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 マーケット関係者の過去の犯罪は、ほとんどすべてが損を隠そうと小さな嘘をついてしまったことから始まっている。
 それなりの知的教育、道徳的教育を受けたディーラーで、最初から他人をだまそうと思っている人は、皆無とは言わないが、少ないと私は思う。一流企業に勤めているなら一層そうだ。そんなことで人生を棒に振るのは採算に合わない。
 勝負に負けているときのプレッシャーは強烈である。「他人の金だから、そんなことはないはずだ」というのは素人の発想だ。他人のお金だからこそ、逆に一層プレッシャーがかかるもの。とくに日本人はまじめだから、その傾向が強い。
 マーケットにおいて全戦全勝などありえないから、ディーラーは誰でも損をする。経験豊富なディーラーは、修羅場経験を通じて「損を隠しちまえ」という悪魔のささやきを断ち切る強靭な精神力を養っている。
 AIJの最大の問題は、損をしているのに儲かっているという虚偽報告をしたこと。マーケットに生きるプロが絶対にしてはならない犯罪だ。運用の素人だった社長は修羅場の経験がなかったので、そのつらさに耐えられず虚偽報告をしたのではなかろうか?

※週刊朝日

 2012年4月27日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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