4月15日は故・金日成主席の誕生日で、北朝鮮では「太陽節」と呼ばれる。今年は生誕100年の節目で、今回のミサイル「銀河(ウナ)3号」は金主席へのプレゼントだった。さらに、金正日総書記を継ぐ金正恩は、新設された「朝鮮労働党第1書記」に4月11日に就任したばかりで、米国本土に直接到達する大陸間弾道ミサイル(ICBM)技術を手に入れ、米国に対して強靭な交渉カードを突きつける予定だった。
 しかし、韓国国防省によると、13日午前7時38分55秒に発射された銀河3号は、2分15秒後二つに分解(高度70キロ)▽4分後に落下開始(最高高度151キロ)▽8分47秒~9分7秒後に破片約20個が黄海に――という末路をたどった。
 銀河3号は「テポドン2号改良型」とほぼ同一で、3段構造だ。1段目は中距離弾道ミサイルのノドンを四つ束ねたものだが、このあたりにトラブルが発生した可能性が高い。識者からは「トラブルが事前に予測されながら、政治的な理由で発射が強行されたのではないか」との声が上がっている。もし、そうであれば、なぜ未熟な技術のまま発射が強行されたのか。
 背景に、いまだ確立されていない金正恩の権力基盤を確かなモノにするためには、「ミサイル発射が最も手っ取り早い」と判断した軍部の存在があるのは間違いなさそうだ。ここに、軍部暴走の可能性を常に抱える「先軍政治」のこの国の恐ろしさがある。
 金正恩の権力基盤を早く固めたい指導部は、金正恩が党第1書記に就く前、北朝鮮内に「正恩神格化」の逸話を流した。
「3歳で銃が撃てるようになり、9歳で動く標的にまで見事命中させた」
「車の運転は3歳で覚え、8歳になる前には大型トラックを時速120キロで爆走させ、目的地まで安全に運転し切った」
「スポーツ万能で、特にバスケットボールでは、プロ選手にも勝ったことがある」
 といったようなものだ。
 北朝鮮事情に詳しい宮塚利雄・山梨学院大学教授によると、神格化逸話は党の機関紙や国営テレビなどを通じて、さりげなく流される。
「とにかく神格化しなければいけないから、徹底的にやります。もちろん、一般市民はこんなものには関心はありません。関心があるのは、食べるものと暖房だけですよ」(宮塚教授)

※週刊朝日

 2012年4月27日号