小田原城(神奈川県小田原市)/没後500年となる小田原北条氏の初代・早雲を顕彰して限定発売された御城印。北条氏の家紋「三つ鱗」と早雲が出た伊勢氏の「対蝶(むかいちょう)」をあしらったデザイン(写真:隠居音屋KKさん提供)
小田原城(神奈川県小田原市)/没後500年となる小田原北条氏の初代・早雲を顕彰して限定発売された御城印。北条氏の家紋「三つ鱗」と早雲が出た伊勢氏の「対蝶(むかいちょう)」をあしらったデザイン(写真:隠居音屋KKさん提供)

 城内を背景にSNSにアップ、自宅でも歴史や地域の特色を楽しめる「御城印」にハマる人が続出している。外出自粛の状況下、取り寄せができる御城印も。AERA2020年5月25日号の記事を紹介する。

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 御城印を手にすると城を攻略した戦国武将の気分を味わえる──。とまでいうのは、なごやっくすさん(ハンドルネーム、35)。昨年、御朱印巡りをしていて、御城印の存在を知り魅せられた。これまで七つの城の御城印を集めたそうだ。

「御城印にはいい意味で決まりがなく、そのワチャワチャ感に戦国武将感を重ね合わせているのかもしれません。適切な表現ではないかもしれませんが、御城印を手にすると武将の首を討ち取った感じです」

 それにしても、「たかが紙切れ一枚」に大の大人がなぜここまで夢中になれるのか。御城印の何が人を引き付けるのか。

 城郭ライターで編集者、『目指せ!全国制覇 御城印ガイド─お城版“御朱印”をもらおう!』(徳間書店)の監修も務めた萩原さちこさんはこう見る。

「小さな一枚の紙に、その城の特徴や歴史、イメージが集約されているのが最大の魅力だと思います」

 例えば、会津若松城(福島県会津若松市)の御城印は歴代城主の家紋が並べられているが、家紋を通して目まぐるしく変化した城の歴史がわかる。

 また、彦根城の御城印は、井伊・彦根藩を象徴する「井伊の赤備え」をモチーフにした赤い用紙に、家紋と旗印、当主の通字(とおりじ)の「直」も入っている。彦根の文化と歴史が詰め込まれた、アート作品に近い印象を受けるという。

「御城印は城と地域の分身ともいえます。御城印を通して地域の歴史や伝統、技術や美意識にまで触れることができます」(萩原さん)

 御城印ブームは、地域の活性化にもつながっている。

 愛知県知多市にある大草城。織田信長の実弟で、本能寺の変を生き延び関ケ原の戦いで武功を挙げた織田有楽斎(うらくさい)が築城しようとして途中で断念した城だ。そんなビッグネームと関係ある城なのに、全国的にはあまりぱっとしなかった。

 そんな時、立ち上がったのが地元の印刷会社「縄文堂商会」代表の林秀人さん(53)だ。大草城を盛り上げようと昨年8月、信長の印の「天下布武」と織田家の家紋「織田木瓜(もっこう)」がデザインされた大草城の御城印をつくり発売した。するとSNSで一気に広まり、全国から老若男女が御城印を求め訪れるようになった。同店や市の観光協会などで売っていて、多い月で400枚近く売れる。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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