宮澤が星槎の母体の学習塾「鶴ケ峰セミナー(愛称ツルセミ)」を開いてほぼ半世紀。いまや星槎グループは通える通信制の星槎国際高校、不登校の子どもに門戸を開いた星槎中学・高等学校を中心に幼稚園から大学まで約4万人の児童、生徒、学生が集う。ブータンやミャンマー、バングラデシュ、アフリカ諸国と交流し、留学生を受け入れている。組織はアメーバのように増殖しているが、全体を貫くのは「三つの約束」だ。

「人を排除しない、人を認める、仲間をつくる」。

 ずっしりと腹にこたえる約束である。星槎は、さまざまな事情で学校に通えなくなった子どもに手を差し伸べ、工夫に工夫を重ねて社会と関わらせてきた。そのノウハウが脚光を浴びる。

 いま新型コロナ禍で世界中の子どもが不登校のような状態だ。大多数の学校が遠隔授業に四苦八苦するが、数年前にオンライン会議システムZoom授業を導入した星槎は一歩も二歩も先をいく。

 たとえば横浜の星槎中学・高等学校は、現在、毎日5時限のZoom授業を行っている。集中力を考慮して1時限30分余りとし、教材は教師の手作りだ。生活リズムを整えるために朝7時の体操から始まる。生徒の出席率は何と96~98%(5月15日時点)。生徒の約4割が小学校で不登校または保健室登校などの準不登校だったことを思えば驚異的な数字である。学校に行けなかった生徒たちが、「早く、授業に出たい」と待ちわびている。

 宮澤と親交がある元文部科学事務次官で現代教育行政研究会代表の前川喜平(65)は、「不登校は学校側の子どもへの不適応」と言う。

「文科省が2005年に学校に来られない子に合わせて授業を工夫できる不登校特例制度を設けました。教科書どおりに授業しなくていい制度です。星槎中学が真っ先にこれを活用した。星槎は制度を上手く使って誰も気づかないニーズをとらえる。すき間産業的かな。宮澤さんは開拓者ですよ」

 もっとも、学校はかくあるべしと信じる保守派は星槎を目の敵にする。いちいち気にしてはいられない。「あいつは教育界のならず者、人生の暴走族だといじめられたなぁ。はっはっは」と宮澤は笑い飛ばす。ときには泥水をすするような苦境に耐え、三つの約束を実践してきた。(文/山岡淳一郎)
                                                                 
※記事の続きは「AERA 2020年6月1日」でご覧いただけます。