厚生労働省の「歯科疾患実態調査」(2016年)では、4ミリ以上の歯周ポケットを持つ人の割合がどの年代においても過去、最高となり、症状の進んだ歯周病の人が増えています。 その状況を反映してかドラッグストアに行くと、「歯周病ケア」「歯周ポケット対策」「知覚過敏」……といった、歯周病関連のグッズが多く並んでいます。とはいえ、「歯周病のいったい何が怖いの?」と問われると答えに「?」がついてしまう人が多いのではないでしょうか。日本歯周病学会・日本臨床歯周病学会による、国民に歯周病について正しい情報を伝える公式本『続・日本人はこうして歯を失っていく』から一部を抜粋して紹介します。

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 歯周病の怖さは、

「歯を支えている周りの骨(歯槽骨)が溶けてしまうこと」

「歯を失う原因になること」

「歯周病以外のさまざまな病気を引き起こしたり、悪化させたりすること」

 が代表的なものです。

 同じ口の病気であるむし歯と比較して、圧倒的に怖い病気といえるでしょう。しかも、痛みなどの自覚症状があまりなく進行していきます。それゆえ、「サイレント・ディジーズ(静かに進行する病気)」や「サイレント・キラー(静かな殺し屋)」という別名でも呼ばれています。

 では、なぜ口の中の細菌がここまで悪さをするのか、歯周病の怖さの理由を解説していきましょう。

 歯は大きく分けて歯ぐき(歯肉)の上に見える部分の歯冠と歯肉の下に隠れている部分の歯根からなります。歯周病は、歯を支える組織である歯肉、セメント質、歯根膜、歯槽骨からなる「歯周組織」に生じる病気です。

 歯周組織と聞くと、歯の「周り」だから、歯そのものに比べればそれほど重要には思えないかもしれません。しかし、そうではありません。歯周組織は、歯をしっかり支える上で重要な役割を果たしています。唯一、歯肉は外から見えますが、その他の組織は歯肉の内側にあるため、病気の兆候に気づきにくいのです。

 歯周病の原因となる歯周病菌は、その多くが空気を嫌う嫌気性菌です。歯磨きが不十分だと歯の表面にネバネバした黄白色の粘着物であるデンタルプラークが作られます。このプラークは細菌の塊で、時間とともにやがてプラークの量が多くなり、酸素が少ない状態になると、このプラークの中で嫌気性菌が多くなります。この嫌気性菌の中に歯周病の原因菌がいて、歯周組織を破壊していくのです。

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いうなれば歯肉を戦場とし歯周病菌と白血球との戦い