やはり健康弱者と健康強者の間には、深い溝があるようです。
吉行さんの養生はまず、疲れたと思ったら、すぐに横になってしまうことです。彼の机の傍らにはベッドが置いてあって、二行書いてはもぐり、三行書いてはもぐる。まるでモグラのようだとご自身について語っています。次なる養生は、深酒をしないことだといいます。ところが彼の深酒はウイスキーのボトル半分を超えて飲むことだというのですから、レベルが違います。さすが酒豪ですね。そして、自分は長生きできないから、ときどき死について考えたそうです。死んだらどうなるかではなく、死に方についてです。
「親兄弟や友人を呼びあつめ、大宴会を開いて歓を尽くしたあげく、『ではみなさんさようなら』と、一本注射をしてもらう。そして、その集まりを葬式の替りにする。そういう時代がきたらいいな、とおもう」(同書)。安楽死がもっと考えられてもよいという気持ちをお持ちでした。
健康強者であろうと健康弱者であろうと、大事なことは自分の生命と向き合うことです。健康強者は強さゆえに、自分の生命を見誤ることがあります。その分、健康弱者の方が養生には有利なのかもしれません。
※週刊朝日 2020年6月12日号