すでに海外では、プラットフォーマーが中傷か否かの判断を握ることで、表現の自由が脅かされる事態が起きた例もある。ドイツでは、2017年10月にネットワーク執行法を施行した。罰金の支払いを回避したい事業者が過剰削除に走り、検閲のような状態に陥った。
各国はインターネットの規制を手探りで進めている。桜美林大学教授でITジャーナリストの平和博さん(57)は、誹謗中傷対策でコンテンツ規制の視点にこだわりすぎると、「命か表現の自由か」という行きすぎた議論に陥ると指摘する。
「プラットフォーマーによるコンテンツ管理だけではなく、発信者情報開示のプロセスの迅速化などを組み合わせることで規制のバランスを取る必要があります。フェイスブックはコンテンツ削除に関して、外部有識者による監督委員会を立ち上げました。プラットフォーマーの判断の透明化も重要なポイントです」
別の懸念もある。発信者の特定が容易になったとき、意見表明を「誹謗中傷」として権力に悪用されはしないか。過去には治安維持法の例があり、議論は言論の自由を担保しながら慎重に進められるべきだ。
総務省は6月4日、発信者の特定を容易にするための制度改正について議論する有識者検討会を開いた。被害者が開示を求める情報に、氏名などに加え電話番号を含めることについて議論が交わされた。反対意見は出ず、7月に改正の方向性を取りまとめるという。(編集部・福井しほ)
※AERA 2020年6月15日号より抜粋