有名な元世界ヘビー級チャンピオンのモハメド・アリさんも、引退の3年後にパーキンソン病を発症し、2016年に亡くなるまで30年以上にわたる闘病生活を送りましたが、ボクシングがその発症原因ともいわれています。
この連載でも以前お話しした通り、脳しんとうはときに命に関わる重大なスポーツ外傷です。そして頭部への衝撃が繰り返されて起こる慢性外傷性脳症は、選手が引退してから何年も経った後に表れることがあるのです。ボクシング以外でも、アメリカンフットボールやラグビーなどの激しくぶつかり合うコンタクトスポーツは要注意です。
慢性外傷性脳症は近年、アメリカで大きな関心を集めてきました。引退したアメフト選手が次々に認知症などの神経疾患を発症し、それが現役時代のプレー中の脳しんとうによる慢性外傷性脳症と因果関係があることが、複数の研究で報告されたのです。そして2013年に4500人以上の元選手たちによるナショナル・フットボール・リーグ(NFL)に対する集団訴訟に発展。最終的にNFLは、アメフト競技と慢性外傷性脳症の明確な関連性を認め、10億ドル近くの賠償金で和解をしています。
世界的に脳しんとうへの注意喚起がなされるようになったことで、アメリカンフットボールやラグビーでは、選手の体に及ぶ可能性のある外傷的影響を最小限に抑えるために、脳しんとうガイドラインが作られ、規制の強化がはかられています。
脳に及ぶダメージは、ヘディングが欠かせないプレーであるサッカーでも危惧されています。
サッカーは日本でも、子どもから大人まで人気のあるスポーツです。サッカーをする人たちの間では昔から、「ヘディング1回するごとに脳細胞が10個減る」といった、脳のダメージを心配する俗説がささやかれていました。しかし、その俗説が笑えないことが、さまざまな研究で明らかにされてきています。
イギリスにおいて、7600人以上の元プロサッカー選手を対象とした調査をおこなった結果、認知症やパーキンソン病など脳疾患を発症して亡くなる確率が一般の人に比べて3.5倍も高かったというデータが昨年、発表されました。