脳梗塞は脳の血管に血のかたまりが詰まる病気だ。いくつかの種類があるが、もっとも重症度の高い心原性脳梗塞(のうそくせん)の新薬が、2011年と12年、相次いで登場した。
東京都在住の大橋カナさん(仮名・70歳)は、5年ほど前に心臓にできた血のかたまりが脳の血管に詰まる心原性脳塞栓症を発症、救急車で東京女子医科大学病院に搬送された。ヘパリンという、血液が固まるのを防ぐ「抗凝固薬」などを使った薬物治療をしたところ、幸い命に別条はなく、それ以降、同院の神経内科に月に1回通院しながら、再発予防のために抗血栓療法を続けていた。
抗血栓療法とは、血液を固まりにくくする抗凝固薬のワルファリンカリウム製剤(ワーファリン)を服用する治療だ。再発の危険性が高い心原性脳塞栓症では欠かせない治療だが、ワルファリンを飲んでいる間は、納豆は禁止で、緑黄色野菜も控えるなど、食事制限が必要だ。
大橋さんは病気をわずらう前まで、毎日欠かさず食べていたほど納豆好きだったが、治療のために食べるのを我慢していた。
そんな11年春、ある朗報を家族から聞く。食事制限がいらない抗凝固薬が日本でも発売されたというのだ。その薬が直接トロンビン阻害薬の「ダビガトラン(プラザキサ)」だった。
大橋さんは次の外来で、主治医の内山真一郎医師(同科主任教授)にその話をし、薬を変えたいと希望。内山医師は必要な検査(後述)をしたうえで、薬をワルファリンからダビガトランに変更した。
それから半年あまりが経過し、内山医師は、「外来で診る大橋さんは以前より元気になった気がする」と話す。
「生活の質を高める意味では、今回、薬を変えたことは正解だったと思います」(内山医師)
※週刊朝日 2012年3月30日号