休館によって来館者がいなくなった水族館では、一部の魚類に行動変化が起きたとのニュースがインターネット上で少し話題になった。
すみだ水族館では、チンアナゴが飼育員が近づいてもすぐに砂に潜るようになってしまったと報告した。
ケアンズ水族館(オーストラリア)では、チャンという名前がつけられたタマカイ(ハタ科魚類)個体は数週間餌を食べなくなったと報告した。
タイミング的に偶然そうなったのか、本当に人の有無が一部の魚類の行動に影響を与えたのかを判断するには、他の環境条件を同一にして検証しないと正確な判断は難しい。しかしながら、毎日世話をしている飼育員が魚類の行動変化に気づいた点はやはり興味深い。
確かに水槽の魚類は来館者を見て、何かしらの刺激を受けているのは間違いないと私も思う。その刺激が良いことなのか悪いことなのかは結局魚類に聞いてみないとわからないが、来館者の存在が魚類に与える影響を私は知りたい。やや主観的でもいいので、水族館は休館によってどのような魚類にどのような行動変化があったのかを報告書にまとめて公表してほしい。
■休館中にマンボウの行動変化はあったのか?
日本で飼育されるマンボウ類はほぼマンボウMola mola 1種のみである。休館中のマンボウが気になった私は、現在飼育中の大洗水族館と海響館にメールで3つの質問をし[照明の点灯時間は変えたか? 餌やり(量・時間)は変えたか? 目立った行動変化はあったか?]、以下の回答を得た。
・点灯時間:【大洗】1時間短縮、【海響館】2灯のうちの1灯を切ったり戻したりした
・餌やり:【大洗】変更なし、【海響館】変更なし
・行動:【大洗】変化なし、【海響館】変化なし
総合すると、マンボウの行動に影響を与える環境要因(点灯時間、餌)は通常時とほぼ変わらず、少なくともこの2館のマンボウは上述のチンアナゴやタマカイとは異なり、休館中もいつもどおりに過ごしていたようだ。
正直言うと面白くない……しかし、「来館者の有無でマンボウの行動には変化が見られなかった」とするこの2館の知見は今しか得ることができない。江戸時代に記された妖怪アマビエが令和で流行ったように、誰かが記録しなければ時事的な知見はすぐに失われてしまう。そのため今回、私はコロナ禍の水族館のマンボウの様子を簡単にここに記録した。
ちなみに、水族館で見られるマンボウの行動は、著書『マンボウは上を向いてねむるのか』にまとめているので、良かったら見てほしい。コロナが終息したら、私もまた水族館でのマンボウ観察を再開したい。
(文・澤井悦郎)
【主な参考文献】
鈴木克美・西源二郎.2010.『新版 水族館学―水族館の発展に期待をこめて』.東海大学出版会.
原澤恵太.2020.日本のすべての水族館が閉まった日(コロナ禍と水族館経営)(2020年4月28日).水族館.com