俳優の仕事は、人に何かを伝えるメッセンジャーのような仕事だと思っている。藤原紀香さんがそのことを深く感じる経験をしたのは15年前、「天国へのカレンダー」というスペシャルドラマで、実在したがん看護専門看護師(CNS)を演じたことだった。
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「主人公のモデルになったのは、当時日本に四十数人しかいなかったがん看護専門看護師の石橋美和子さん。彼女自身は末期がんを患い、ドラマ化される1年前、2004年の1月に40歳という若さでこの世を去りました。最後までがん患者さんに寄り添うだけでなく、CNSという職業を世に認知してもらい、目指す人を増やしていきたいと、闘病の傍ら講演活動を積極的にされていた人間力豊かな素晴らしい方で。私もお話をいただく前は、がん専門の看護師さんがいらっしゃると知りませんでした。調べれば調べるほど石橋さんのお人柄や熱意、想いが伝わってきて、もし演じられるなら全力を尽くして務めたいと思いました」
しかし当時、石橋さんの両親は「娘の人生をどのように描ききれるのか」と、ドラマ化に対して首を縦に振らなかった。
「プロデューサーさんと共に、石橋さんのご両親のもとへ伺いました。そこで、このドラマを世に出す意義と、“美和子さんの思いを世に伝えたい。美和子さんが命をかけたこの職業を目指す方が、一人でも多く増えていくように、思いを込めて演じたい”と心から伝えました。後日、プロデューサーさんに連絡が入り、製作に関してご両親が納得してくださったと」
ドラマが放送され、石橋さんの母から手紙が届いた。そこには、「放送を見るまでは心配していた夫が食い入るように画面を見て、『あれは、美和子だな』と何度も言うのです。紀香さんが演じてくださった役に美和子がずっと生きていました。本当にありがとうございました」と書かれていた。
「この時、心底俳優をやっていてよかったと思いました。その後も多くの方から『ドラマをきっかけに、この職業を知りました』『今、がん看護専門看護師を目指し勉強中です』などのお便りをいただき、“俳優という仕事は、いただいたお役を懸命に演じ、共感や感動を呼び起こすだけでなく、作品の持つメッセージを発信し、社会に対してほんの少しでも影響を与えられるものなのだ”と深く感じたのです」