前出のイルージさんの夫は家族の安全を心配し、その晩は、警察無線を聞くための「ポリススキャナー」にかじりついていたという。だが、落ち着くにつれ、長いあいだ周縁に置かれてきた人たちへの支援に全力で関心を寄せるようになった。4歳の息子さえ「人々の間に壁を作ってはいけない、と理解している」と話してくれた。

 シカゴは歴史的にも黒人と白人の溝が深い街だ。

 1900年代の初めに米南部から黒人が移り住み、それ以来、迫害され続けている。今でも黒人が集中するシカゴ南部と、西部や白人が好んで住む北部との間の貧富の差は激しい。南部は治安が悪いところも多く、学校も資金が足りず、スーパーなど生鮮食品を安く買えるような店もあまりない。かつての公営住宅は全米で知れ渡るほど悪名高く、犯罪が多発し設備もひどかった。

■警官が死なせた3分の2以上が黒人

 警察の暴行も当然、長い歴史がある。地元の権力監視組織「ベター・ガバメント・アソシエーション」によると、2010~14年に警官が死なせた70人のうち3分の2以上が黒人だった。3年前の司法省の調査では、シカゴ市警察は黒人の容疑者に対し、白人の容疑者よりも10倍多く暴力をふるっていることが判明した。2014年には、何をしたわけでもない17歳の黒人青年が警官に16弾も撃たれて死ぬ大事件が起き、全米で報じられるニュースになった。だが、その警官はたった18カ月の禁錮刑で、地元の怒りを被った。

 それに対し、塀の中では、殺人を犯したわけでもないのに終身刑となっている黒人やラテン系の受刑者が少なくない。その傾向は全米でも同様だ。

 私は以前、サンフランシスコに住み、近くのカリフォルニア州立サンクェンテン刑務所でジャーナリズムを教えていたが、黒人の生徒の一人は400ドルのビデオデッキを盗もうとしただけで、25年の禁錮刑を受けた。大麻保持容疑で捕まり、20年以上の禁錮刑となった生徒も何人もいた。

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差別や偏見への白人の意識のなさ