近藤さんが出演する映画「河童の女」には、彼のワークショップに参加している俳優が、何人か出演している。あの社会現象となった映画「カメラを止めるな!」を生んだENBUゼミナールの最新作。「カメラを止めるな!」のヒットのお陰で、役者をオーディションで選んでワークショップを経て撮影するというシステムが知れ渡り、今回の応募者は400人を超えた。今や、このプロジェクト自体が、活躍が期待される俳優と新進気鋭の監督が出会う場になっているのだ。

 近藤さんが演じたのは、川辺の民宿を息子と2人で経営する父親の役だ。

「俳優はオーディションで決定されたんですが、父親役ができるくらいの年齢の俳優はオーディションに来なかったらしい(笑)。それで、プロデューサー直々に頼まれました。でも、ホンを読んだらおもしろかったんです。間抜けな人たちや彷徨っている人たちを救うような、愛のある映画だと思いました」

 今回、メガホンを取ったのは、51歳で長編映画デビューとなる辻野正樹監督だ。本作のテーマは「人生には、新しい世界を目指す勇気が必要なときがあるということ」。確かに、このコロナ禍で、何か一歩踏み出そうと思えてくるような、笑えて心が温まる作品だ。

 さて今回の取材は、アクリル板越しに対面で行われたが、徐々に、仕事の環境は元に戻りつつある。

「ここ数年、テレビや映画、演劇などの業界全体、どんどん予算が厳しくなっていた。僕は正直、これから芸能界はどうなっていくんだろうと案じていました。コロナで、一回すべてが止まってしまったけれど、少なくとも、みんなでいろんなことを考えて、原点に立ち戻れたことはいいことじゃないかな。僕は津川さんの言葉を胸に、前を向いてワクワクすることに出逢っていきたいと思っています」

 撮影のとき、近くの街中を少し歩いてもらった。小顔でスタイルが良く、動きも軽やかな近藤さんは若々しく、とても58歳には見えない。ただ、そこは“体が資本”の俳優業。ずいぶん前から、健康には気を使っているそうだ。日々の健康法は、20年続けている体操とファイトケミカルスープ。

「ただ、これほど真面目に体のケアを続けている割には、たばこだけはどうしてもやめられない。この矛盾、『河童の女』のテーマにも通じるところがあると思います(笑)」

(菊地陽子 構成/長沢明)

週刊朝日  2020年7月10日号より抜粋

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