記者も母が入院していたときは2週間に一度帰省し、病院に見舞いに行きつつ、家の管理、ケアマネ・ヘルパーとの打ち合わせと時間に追われ、体力を消耗した覚えがある。
東京や大阪などの大都市と地方では新型コロナに対する意識の違いがある。自粛で人が目に見えて減った大都市は、みんなが感染しないように対策をしている。一方、人口が少ない地方で暮らし、普段から人と接する機会があまりない場合、なかでも高齢者は、新型コロナが猛威を振るっている実感が薄いようだ。
記者も電話で口を酸っぱくして新型コロナに気をつけるよう父母に伝えても、
「大丈夫。東京は大変だろうから気をつけて」
と、こちらの心配ばかりする。親は自分が高齢になって世話をされることが多くなっても、子どものことが心配で仕方ないようだ。その気持ちはありがたいが、ここはその気持ち以上に介護する子どもの側が気をつけたほうがいい。
遠距離介護で親の体調を気遣うのはもちろんだが、親に関係する手紙や書類の管理も重要だ。
記者の場合も郵便物が一部捨てられている時期があり、実家の自動車税が未納になり、車検が切れていたことがある。以来、郵送された手紙は捨てずに置いておくよう強く言い伝えた。
そんなこんなで、遠距離介護とは気骨が折れることばかりである。
コロナ禍の拡大で、遠距離介護で具体的に留意すべきことは何だろう。盛岡で一人暮らしをする認知症の母を遠距離介護している介護作家・ブロガーの工藤広伸さんに尋ねた。
「一番心配なことは、母が人と触れ合う機会が減り、認知症が進んでしまうのではということです」
コロナ禍に見舞われる前は月に一度、1週間ほど帰省していたが、それができなくなったからだ。
その一方で、5~6年前に見守りカメラをつけ母の様子は把握をしている。ただ、誰もがカメラを入れているわけではない。
「見守りカメラや、顔を見て通話できる機器を入れることを嫌がる高齢者はけっこう多いですね」
介護する側からすると、心配だからカメラを通してでもリアルタイムで親を見ていたいし、もしも何か起こった場合、カメラがあるとすぐわかるからあったほうが安心だ、と思う。
「カメラがあると監視されているように感じるようです。親には親の生活があるので、その点は尊重したほうがいいでしょうね」(工藤さん)
かつて、記者もカメラを置こうと考えたことがあったが、そんなものはいらない、と一蹴されたことを思い出した。
外出自粛で帰れなくなって以来、記者は電話をよくかける。でも、耳が遠く認知症が進んでいるため、大きな声で話したり、何度も同じことを繰り返し話したりせねばならずイライラすることも多い。やはりカメラがあれば、と思うことが何度もあった。(本誌・鮎川哲也)
※週刊朝日 2020年7月10日号より抜粋