2月16日、昭和を代表する名女優、淡島千景さんが膵臓(すいぞう)がんで亡くなった。演劇評論家の藤田洋さんが、淡島さんの魅力を振り返った。
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「宝塚時代から演技力に定評があり、辞表を受理せずに引き留める劇団側を振り切るかたちで映画界にデビューしました。積極的に前に出るわけではないけれど、求められたことをきちんと演じられる人なので、共演した主演男優にとって、安心できる女優さんだったのでしょう。そういったところが、映画『夫婦善哉(めおとぜんざい)』(1955年)で森繁久弥さん(2009年没)が演じたグータラ男役と、絶妙なバランスを生んだのです」
軽妙洒脱(しゃだつ)な芝居で、日本映画で初めてのコメディエンヌとしても活躍したが、仕事に対するする姿勢は、誰よりも真剣だった。撮影の合間に共演者が場の空気を和ませようと世間話をしても、ほとんど答えなかったという逸話がある。
その凛とした姿は、あの森繁さんをして、「僕はいろんな女性を口説いたけれども、森光子、淡島千景、山田五十鈴には、ずっと手が出なかったね」と言わしめたほどだった。
※週刊朝日2012年3月2日号
