秦准教授は11年度時点の洪水浸水想定区域の地図データと、1995年から2015年の国勢調査結果をもとに、洪水浸水想定区域内の人口と世帯数を割り出した。その結果、20年間の区域内の人口は4.4%増の約3540万人、世帯数は47都道府県全てで増え25.2%増の約1523万世帯となった。

「単独世帯の増加や核家族化によって、浸水リスクの高い土地の住宅開発が各地で続いているからだと考えられます」

■「居住誘導」などの対策

 今回、被害にあった自治体はどうなのか。世帯数増加率を見ていくと本県は18.9%。さらに6日から大雨が降り、命を守る最善の行動を求める「レベル5」の「大雨特別警報」が出た福岡、佐賀、長崎の世帯数増加率は福岡38.4%、佐賀15.1%、長崎22.7%。8日に大雨特別警報が出た岐阜は21.5%、長野は20.2%といずれも2桁以上で、浸水リスクは高いといえる。

 浸水リスクのある洪水浸水想定区域は、国交省がホームページで公開している「重ねるハザードマップ」で、ある程度は確認が可能だ。同ハザードマップの「洪水」エリアが、洪水浸水想定区域とほぼ重なる。

 河川工学が専門の京都大学の今本博健(ひろたけ)名誉教授は、水害を防ぐにはダムに頼らない治水が必要だとして、こう話す。

「ハード面では、川底を掘り水量を増やす浚渫(しゅんせつ)が必要。ただ、今回のような球磨川で降った雨は防ぎようがなかった。ソフト面での対策として、避難計画の拡充も重要です」

 秦准教授は、今や特定の場所が危ないとは言えなくなっているとして次のように語った。

「今後、住民は危ないところにはできるだけ住まないようにする。また、千寿園のような高齢者施設は原則として洪水浸水想定区域内につくらないなど、行政による開発の制限も必要です。人口減少下で、持続可能な地域のあり方を考えた場合、災害リスクの低いエリアに住宅を誘導する『居住誘導』を行うなどの対策が不可欠です」

 もちろん、一人ひとりが非常持ち出し袋などの備えを点検し、いざという時に命を守る行動をためらってはいけない。(編集部・野村昌二)

AERA 2020年7月20日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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