クリオロスが管理している人体の凍結保存用容器。内部は液体窒素でマイナス196℃まで冷却されている。人体の血管には不凍液を注入する(写真:クリオロス提供)
クリオロスが管理している人体の凍結保存用容器。内部は液体窒素でマイナス196℃まで冷却されている。人体の血管には不凍液を注入する(写真:クリオロス提供)
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 人類の「寿命」をめぐる常識を塗り替える可能性のある日本発の研究成果が次々に発表されている。中でも有望なのはQ神経を刺激することによる「人工冬眠」と、「機械への意識アップロード」。ただ、実現まではどちらの技術も約20年かかるとみられている。これらの技術が確立するまでの「つなぎ」として一部で期待されているのが、遺体の冷凍保存だ。AERA 2020年7月27日号に掲載された記事で、ロシアの冷凍保存施設への遺体搬送を請け負う一般社団法人日本トランスライフ協会代表理事の鏑木孝昭さんに話を聞いた。

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 ややとっぴに聞こえるかも知れないが、医療が発達した未来での蘇生を期待して、人体を冷凍保存するサービスがある。米国の「アルコー延命財団」やロシアの「クリオロス」だ。

 2016年に設立された一般社団法人日本トランスライフ協会は、クリオロスと提携し、同社への遺体搬送を請け負っている。実際の搬送はまだないが、代表理事の鏑木孝昭さん(60)は16年にモスクワ郊外のクリオロスを訪ねた。

 高さ3メートル近く、4、5体が一度に収容できるほど巨大な円筒容器の上部から内部をのぞくと、白く煙る容器内にうっすらと人体らしき塊がつるされていた。担当者が液体窒素やドライアイスの交換頻度や電源のバックアップ態勢などを丁寧に説明してくれ、「しっかりしているな」と感じたという。

 搬送費用は1体あたり550万~650万円。手数料、航空運賃、永久保管料込みだ。協会の会員は30~60代の医者や研究者、会社経営者など10数人。すべて男性だ。契約には本人に加え遺族代表の同意も必要となり、末期ガンで「余命半年」と宣告された名古屋市の30代男性は本人は利用を希望したが、遺族の了解を得られないまま亡くなったという。

 ただ、クライオニクスによる蘇生は現在の技術では極めて実現困難と見られている。

「私たちも積極的に希望者を募っていません。確実に蘇生できます、なんてことは口が裂けても言えませんから。ご希望があればやります、というスタンスです」

 鏑木さんも死後は冷凍保存を希望しているが、あくまで「つなぎ」だという。

「基本的には生きている間に、知能や人格がコンピューターの中に移すことができれば一番いいと思っています。それまでに寿命が尽きた場合、クライオニクス(冷凍保存)でつなごうと考えています」

 なぜ、そうまでして「生きたい」のか。

「もちろん死にたくないという思いもありますが、未来が見たいという思いが強いかな」

(編集部・渡辺豪)

AERA 2020年7月27日号抜粋、一部加筆

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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