■高血圧や糖尿病を きちんと治療する

 山本医師は、主に瘤の大きさと患者の年齢によって指示を出している。例えば、見つかった瘤が3センチ台で、80歳以上なら「受診の必要なし」と伝えている。瘤の平均的な年間拡大率は0・5~1ミリであり、治療の対象となるまでの年数と平均寿命を考えた結果である。

 一方で、瘤が4センチ台の場合は、年齢にかかわらず毎年CT検査をおこなう。

「CTを5年間撮れば、患者さんごとの瘤の拡大率の予測ができ、それに沿って適切なタイミングでの治療が可能になります」(山本医師)

 志水医師は、瘤が動脈硬化から発生しているとみられるなら、動脈硬化のリスクを減らすために、高血圧や糖尿病をきちんと治療することや禁煙などをすすめる。続けて、次のように注意を促す。

「高血圧や糖尿病の治療などは、大動脈瘤の背景となっている動脈硬化のリスクを下げ、大動脈の壁にかかる圧力を少し弱くするだけです。大動脈瘤そのものの治療ではありません」
 大動脈瘤の治療は、根本的には人工血管に入れ替えるか、ステントグラフトを留置するか、だけだ。大動脈瘤そのものに効く薬はないといっていい。山本医師は、こう話す。

「大動脈瘤治療の目的は瘤の破裂を防ぐことです。例えば最大血圧が160ミリメートルHgなら破裂するが120ミリメートルHgなら破裂しないという科学的な根拠はありません。降圧薬で血圧を下げても破裂を防ぐことはできないのです。大動脈瘤が一定以上に膨らみ、生命を維持できるだけの血圧がかかっていれば、いつでも破裂の危険性があるのです。それを前提に治療のタイミングや治療方法について医師とよく相談してください」

 なお、胸部大動脈瘤の治療も含む心臓手術に関して、週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』では、全国の病院に対して独自に調査をおこない、病院から回答を得た結果をもとに、手術数の多い病院をランキングにして掲載している。同ムックの手術数ランキングの一部は特設サイトで無料公開。

手術数でわかるいい病院
https://dot.asahi.com/goodhospital/

(文・近藤昭彦)

≪取材協力≫
川崎幸病院 院長 山本 晋医師
慶応義塾大学病院 心臓血管外科教授 志水秀行医師

※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』より

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