※写真はイメージです (GettyImages)
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 文芸評論家の斎藤美奈子氏が数多の本から「名言」、時には「奇言」を紹介する。今回は、村木厚子著『公務員という仕事』(ちくまプリマー新書、860円)から一節を取り上げる。

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「だれかが声を上げることで、制度の発展はより促進されます。」

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 不祥事続きで最近めっきり旗色の悪い公務員。半面、公務員は一生安泰とされる人気職種だ。村木厚子『公務員という仕事』は1978年に労働省(現厚生労働省)に入省、以後37年半、同省で働いたキャリア官僚の職業案内だ。

 民間企業と役所のちがいは<公務員の提供する“商品”は、原則として代替が無い>ことだ。<熱烈なファンがつく商品ではなく、とりあえずみんなに「まあしょうがないか」とか「これで行くしかないな」と納得してもらえる制度をつくり、それをみんなに“押し付ける”>。である以上、多くの人のニーズを満たし、長続きする制度にし、国民にわかってもらわなければならない。公務員に必要な能力はしたがって、人々のニーズをつかむ感性(問題発見力)、それを形にする企画力(問題解決力)、制度を国民はもちろん関係機関(財務省や自治体など)に納得してもらうための説明力だと。

 公務員はあくまで黒子。<自分の名前で仕事をしたい人には公務員は向かない>が、変化に富んでいてやりがいも大きい。

 裏話の数々が興味深い。男女雇用機会均等法の制定(1985年)は、男性55歳、女性50歳の定年を違法とする最高裁判決(81年)が後押しになったこと。同法にセクハラ防止条項を入れる研究会を立ち上げた際には「セクハラは週刊誌ネタだ」と財務省にいわれ「非伝統的分野への女性労働者の進出に伴うコミュニケーションギャップ」に書き換えたこと。90年代は男女平等政策が大きく進んだ時代だったが、背景にはさまざまな駆け引きがあったらしい。

 週休2日制も女性が働く環境が整ってきたのも陰で動いた人がいたからだ。<制度や法律は、なかったらつくり、できた後はそれを検証することによって発展させていくことができるものです。困っていることがあれば、だれかが声を上げることで、制度の発展はより促進されます>。

 お役所不信は払拭できないかもしれないが、本来の公務員とはこういうものなんだとわかる本。公務員志望の若い人は必読ですね。

週刊朝日  2020年8月7日号