《脱原発を目指す東京の市民団体「たんぽぽ舎」で、10月12日に講演したヘーンさんはまず、視察した福島県の飯舘村と南相馬市の話を始めた。》
南相馬では校庭の汚染された土を穴に埋めて、ブルーシートをかぶせていました。除去ではなく、移動です。苦肉の策であり、ベストの対策ではない。除染作業は何年、何十年と繰り返さなければいけない。避難生活で、仲の良い夫婦、親類関係がばらばらにされている現実も知りました。原発事故は、社会のインフラを壊すだけでなく、人間関係も壊していくのです。
《子どもたちの健康を害する公害問題を解決しようと、政治の世界に入った。身ぶり手ぶりを交えながら、歯切れのよい力強い言葉で、ドイツの脱原発の流れを解説した。》
緑の党が社民党と連立政権を組んでいた2002年の時点で、ドイツは脱原発を決めていました。ところが09年に保守派が政権を握ると、老朽化原発も含めた稼働期間延長を決定。これには国民の反発が強く、脱原発の動きが再び盛り上がった。そんな中で福島の事故が起こったのです。メルケル首相はそれまでの態度を覆し、今年7月には2022年までに原発を全廃する政策を決定しました。
連立政権時代に脱原発を決めたとき、表裏一体のものとして自然エネルギーへの転換を打ち出しました。1999年時点で30・6%あった原子力エネルギーが、今年上半期では17%に減った。逆に5・2%だった自然エネルギーは20%に伸びて、初めて原子力を逆転しました。
脱原発、自然エネルギーへの転換というのは、プラス面を含んだ議論です。
自然エネルギーへ転換することで、新しい雇用を大きく創出します。現実にドイツでは自然エネルギー関連で40万人の雇用が生まれました。省エネ分野でも25万人の新規雇用が見込まれている。雇用がさらに増えていくと確信しているからこそ、脱原発、自然エネルギーへの転換に支持があるのです。
さらに、自然エネルギーへの転換で大事なのは、小規模で地域の経済に根付くことができる、ということです。地域に付加価値をもたらします。
一方の原発は、巨大な資本が動き、巨大な設備をつくり、そこであげられた利益は地域に還元されず、外国での投資に使われることもある。そうなると国内の労働市場がさらに縮小する。リーマン危機や、このところのユーロ危機の中でもドイツはいちばん粘り腰で、経済が落ち込んでいない。過去数年間の自然エネルギーへの転換によって、強力な地域経済が生まれていることも一つの要因です。
《ドイツは、自然エネルギーによる発電の買い取り制度などを充実させて、地域にメリットのある方向性を打ち出している。チェルノブイリ原発事故で放射能汚染の被害を受けたこともあって、原発への市民の関心が高いという。》
原発促進派の学者は、原発事故というのは確率論からみて1万年に1回しか起きないという。ところが私の人生の中でチェルノブイリと福島の2度、原子炉の事故が起こっています。
地球環境を考えたときの持続性の点でも、原発は存続し得ないものです。
原子力の時代は長く見ても50~60年、せいぜい2世代しか続かない。ドイツでは実際、そうなった。ところが原発の核廃棄物は100万年も管理しなければいけない。これは、持続性の原則に反しています。
100万年というのは、人が想像できる感覚を超えています。旧約聖書に出てくるバベルの塔は、わずか3千年前の話とされますが、それがどこにあったのか、だれもわからない。核廃棄物の最終処理場というのは100万年後も安全で、だれもが知っている場所でなければならない。まったくバカげた話です。
ただ、もう原発を使ってしまったわけですから、それを廃炉にし、使用済み核燃料の最終処理場はつくらなければならない。
ドイツでは、脱原発を徹底しないまま最終処理場をつくることはありえない。これが基本。万が一にも最終処理場を先に決めて脱原発は決められないということになると、原発をいつまでも続けるという可能性をもたらすからです。まず脱原発が決まってから、最終処理場の議論がおこなわれるべきです。
◆真剣なときにも笑顔を忘れずに◆
電力会社は、うまくいっているときは巨大な利益を生み、その利益を享受する。ところが損失が出ると、今回の東京電力のように、最小の賠償のみをおこない、それ以外に発生する損失やコストは、国、社会、最終的に市民が負うということになる。「利益は個人に、損失は社会に」という構造は許されない。ドイツでも基本的に同じ構造がありました。
自分が政治活動、市民活動に参加した原点を思い返すと、30年前、子どもたちの健康を犠牲にして利益を出そうとする経済構造は絶対許さない、という思いでした。
《日本では脱原発はいつごろ実現できるだろうか、という質問には、「やる気さえあればかなり早く実現できる」と答えた。》
ドイツの各政党は、電力需要すべてを自然エネルギーでまかなえるという点では一致しています。日本にもできないわけがない。日本の地形を見ても、海岸部の風力発電には非常に可能性を感じる。景観保護の点からドイツでも反対はあるが、守るべき景観は守り、つくるところにはつくると、仕分けをしてやっていくしかない。地域の住民が議論をして、自分たちで決めることが大切です。
ドイツでも膨大な広告宣伝費を抱えている電力会社がメディアに圧力をかけることはありましたが、脱原発への関心が高いジャーナリストというのは、どのメディアにもいます。重要なのはアイデアです。目新しくて、若々しくて、カラフルで、おじいちゃんと孫が一緒に参加できるような運動を創造するのです。メディアはおもしろいもの、今までにないものには、必ず飛びついてきます。
最後にひとつ付け加えたいのは、日本で9月の脱原発集会とデモに5万、6万という人が集まったのは、大きな成功だと思います。私はドイツにいて、そのニュースを日本の友人のフェイスブックで知りました。インターネットのポジティブな力を信じています。今後の活動の中で、イデオロギーにこだわらず、テーマ、実質主義で物事を進めてみてください。そして、真剣なときにも笑うこと、冗談を言うことを忘れないように。やっぱり楽しくなければ、力は出ませんから。 (構成 本誌・堀井正明)
古賀茂明
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