睡眠時無呼吸症の治療を保険適用内でおこなう場合、治療法はAHIによって決められる。AHIが20以上の場合は、CPAP(シーパップ)と呼ばれる呼吸装置が第一選択になる。CPAPの仕組みは、鼻マスクを通じて空気を送ることで、閉塞した気道の粘膜を開いて呼吸ができるようにするというもの。
CPAPは睡眠時無呼吸症の治療法として、最も普及していて効果も高い。しかし、AHIが20以上でなければ保険適用にはならない。
高岡さんのようにAHIが20未満の場合は、マウスピースによる治療が効果的だという。睡眠時無呼吸症治療に使用する専用のマウスピースは、歯ぎしり防止のマウスピースとは違い、下の顎(あご)が前に出る形で装着する。下顎を前に出すことで舌の根っこが引き上げられ、呼吸がしやすくなる。
高岡さんにも専用のマウスピースを作製し、使い始めてもらった。その結果、高岡さんのAHIは5.4にまで改善し、血圧は徐々に安定に向かっていった。高岡さんは脳梗塞の再発はなく、今は元気に暮らしているという。
とはいえ、高岡さんが生死の境をさまよったことには変わりない。この例に学んで、睡眠時無呼吸症の予防や、早期の発見・治療に努めたい。いびきや眠気など、睡眠時無呼吸症の兆候が見られたときにかかるべき診療科について、鈴木歯科医師は次のように語る。
「睡眠時無呼吸症の疑いがある場合は、まず内科や耳鼻咽喉科で診断を受けてください。その後、マウスピースが必要になれば、歯科で作製することになります。当院のように医科と歯科が連携している病院であれば、これらは1日で済ませることができます」
現状では、睡眠時無呼吸症の診断やマウスピースを作った後の効果判定は医科でおこなう決まりになっている。そのため、いびきがひどいからと歯科に駆け込んでも、医科での診断を促されるか、自費でマウスピースを作るしかない。睡眠時無呼吸症の疑いがある場合は、専用の医科外来を受診すると手間が省けるだろう。
日本大学松戸歯学部付属病院では、睡眠時無呼吸症の診療をおこなう外来を「いびき外来」と名付けている。この理由を鈴木歯科医師に聞いた。
「いびきには必ず原因があります。その原因を取り除いてあげれば、睡眠時無呼吸症の予防にもつながる。いびき自体を深刻に捉える人はいまだに多くありません。だから、警鐘を鳴らす意味でもあえていびきを強調しています」
(文/中川雄大)
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