「昌幸が人を欺く場面では、どんなことを考えて演じていますか?」

 撮影中、堺雅人くんからこう訊かれたとき、

「全部、直球」

 と答えました。意味ありげな表情をつくるような芝居はせず、「二枚舌」といわれる場面でもすべて直球で挑みました。だからこそ、

<大博打の始まりじゃあ!!>

 という、その翌週の台詞はじつに気持ちよかったですね。最も心に残った決め台詞でもあります。

 息子たちよ、どんな手を使っても、わしは真田を、この地を守り抜いてみせる──。東西の要としての信濃の価値を再認識した昌幸は、今後、大名たちと対等に渡り合っていくことを決意する。いわば、大見得を切るのです。

 決め台詞にはエネルギーがある。それは、見得を切る歌舞伎という伝統芸能を持つ、日本ならではの財産ではないでしょうか。DNAだといってもいいくらいに、脈々と昔から受け継がれている気がします。歌舞伎や時代劇の絶世のスターといった継承者たちが、その醍醐味を直に僕らに教えてくれていました。

 ここぞ、というときに、言葉で決めるわけです。何も要りません。言葉だけで、いまこのときを特別な瞬間に変えてしまうのだから堪らない。周囲のエネルギーを一手につかみ、次の瞬間、解き放つ。演じる側も観る側も、その一瞬は同じ渦から解放される。だからこそ、決め台詞は快感を生むのです。

 あのときは、自分で自分の声に驚きました。ものすごく高揚しました。人生はほんの短い旅なのに、一歩一歩どうしてこんなにふらついてしまうのかという自分自身が、いざ台詞となると、天を衝く勢いさえ出せる。僕のなかにある僕の知らない何かを、台詞が引き出してくれるのです。いうまでもなく、三谷マジックのザ・決め台詞です。

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