午後10時半ごろ、すなわち「環球時報」が李医師の訃報を発した1時間後、その微博上の投稿は削除された。訃報には「複数の関係者に証拠を求めたところ」のような字句があったのではないか? 「環球時報」は権威ある大メディアではないか? 私は当然ながら李医師がまだ生きているから、まだ治療中であるからニュースが削除されたのであればと願った。ニュースがガセであってほしいと望んだ。奇跡が起きてほしいと。

 そこで私は急いで微博じゅうを検索してみた。すぐにこんなメッセージが見つかった。「ウイルス流行の内部告発者である李文亮医師はいまだに緊急治療中である。彼のために祈ろう」。このメッセージの発信者は武漢中心病院の医師だった。しかし、それを僥倖と受け止めるわけにはいかなかった。メッセージには「彼は生死の境にいる」という表現もあったからだ。私は怒りが込み上げた! 体制についての私の理解に従えば、ほとんどうなずける話である。彼らはまさに今、遺体をさいなんでいる。なんと邪悪なことか。

■同僚たちの情報発信

 さらに2月7日午前2時すぎ、私は中心病院から流れ出したいくつかの情報を目にした。それらの発信時間はどれも6日午後11時ごろだった。

「8時半危篤。無理やり挿管、生きながら責め苦を与えられる。死して後に挿管、ECMO(体外式膜型人工肺装置)すべて試される」

「幹部は言う。まだまだ蘇生処置を施すのだ、彼が死ぬと面倒なことになる、もう少し頑張らなければならない、たとえだめでも、一つのポーズとして。微博にうずまく憤怒は大地を揺るがすほどのものだ」

「メッセージを見たとたん私はデマだと思った。もどかしく防護服に着替え呼吸科のICUに駆け付けると、そこで見たものは血の気のない一体の患者だった。いまだ心臓マッサージ機が打ち続け、同僚たちが周囲を取り巻いていた。ECMO? 何か意味があるのか。心肺は停止して久しい。すでに意味はないのだ……」

 明らかにこれらは武漢中心病院の医師たちだ。李医師の同僚たちが情報を発信したのだ。すべてに目を通した私はソファの上で声にならず泣いた。ウィスキーをしこたま飲んで落ち着きを取り戻した私は自分に言い聞かせた。「何かしないわけにはいかない」

○阿坡(A.PO)/一武漢市民。77日間の武漢都市封鎖(ロックダウン)を経験し、この手記を執筆。「阿坡」は本名ではない。全世界に多大な迷惑と災難をもたらした新型コロナウイルスについて、一人の健全な精神を持つ中国人としてお詫びの気持ちを表すために、英語の「apologize(お詫びする)」から取った。全世界の国々が中国からのお詫びを待ったとしても、それが述べられることはない。だか、この名前を用いて手記でお詫びの気持ちを表したいと考えている。

訳:kukui books

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