プラユットが率いる軍事政権は、バンコクをシンガポールのような街にしたいと思っているといわれる。しかしそれは表向きの話で、本音は開発独裁型政権。つまり権力を政権に集めていこうとしているとタイの識者は分析する。バンコクの路上から屋台を一掃したのはその政策のひとつだった。
タイにはロックダウンや営業時間の短縮に対する店側への補償がない。店を存続させるには融資を受けるしかない。ソイ・ナナの歓楽街は消滅の危機に直面している。
もちろん反発も多い。反対集会を防ぐために非常事態宣言を延長しているという噂のなか、8月16日には、1万人規模の反政府デモが起きた。そのなかではタイでは昔からくすぶっていた王室改革の主張も出てきた。
暗いソイ・ナナを眺めるバンコクファンの日本人の気持ちも千々に乱れる。なんとか以前のバンコクに戻ってほしい。しかしコロナ禍が去ったとき、バンコクは違う街に姿を変えているかもしれないという不安がよぎる。
■ 下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「沖縄の離島旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)。